夫婦喧嘩 6
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ふらふらとナルトは執務室に戻って来た。
あれ以上考えても思いはループするばかりだし、カカシの言う通り仕事していれば、カカシも戻って来るかもしれないと思ったのだ。
執務室では、影分身とサクラが仕事に追われていた。


「ナルト!? カカシ先生は?」
「仕事に戻れって…」
「やっぱりカカシ先生ね。で、あんたはケンカしながら戻って来たってわけだ?」
「な、何で判るってば?」
「そりゃ判るわよ。ナルトったら、しょぼくれながら入って来たんだもの。ケンカして、怒られて戻って来たんだって」


女って凄いなと感心しつつサクラを見る。自分が内心を素直に顔に表してしまう人間だって事をナルトは分かっていない。


「ケンカしたって事まで判るってば?」
「相手がカカシ先生だもの。影分身に仕事させて自分が戻って来るなんてもっての外、とか言って怒りそうじゃない? 先生あれで真面目だから」


サクラもよく人を見ているなと思う。同じ7班だという事もあるのだろうが。


「ホント、先生は真面目だってばよ…」


ナルトは大きく息を吐く。

「なあに? そんなに大きなため息吐いて。カカシ先生の傍に居たいなら、早く仕事を終わらせればいいでしょ?」





「……出て行った…」





「え?」

「だから、カカシ先生、出て行ったってばよ…」

「何で?」


「…分かんねぇ…」



分かんないじゃないでしょ、あんた何やったの?とサクラに詰め寄られ、仕方なしにカカシに会ってからカカシが出て行くまでの経緯を話す。


「ナルト…」


サクラの形相が変わる。眉間にシワが寄り、こめかみに青筋が浮かんでいる。明らかに怒っている。
自分は話をしただけなのに、何をそんなに怒る事があるのだろう。
ナルトは戸惑い、かなりドキマギしながらサクラの言葉を待つ。
サクラは気分を落ち着かせる為、深く息を吐いてからナルトに言った。


「どう考えてもナルトが悪い!」
「へ? オレ? オレは何も…」
「してないって言うの?」
「う、うん…」
「呆れた! ナルト、あんたカカシ先生が浮気したって疑ったのよ? それどころか、責めてるじゃないの。先生が怒るの当たり前よ」
「だ…だって、カカシ先生、ヤマト隊長と…」
「たまたま一緒になっただけでしょ。先生もヤマト隊長も任務地は別々だったんだから」
「すんごい優しい顔して笑ってた」「カカシ先生は誰にだって優しいじゃない」
「…指輪だって、なかった…」
「タグの裏側に隠れて見えなかっただけでしょ」
「………………」
「ナルト、カカシ先生はああ見えてかなり純情よ? 堂々とエロ本なんて読んでたって」
「だって、先生もてるし…」
「そりゃ、カカシ先生は里一番の人気者だしね。でもね、先生はいつだってナルトの事を一番に考えているわ」
「でも…先生、仕事しろって、戻れって…。それって、オレと居たくない…」
「バカね。ナルトは火影なのよ? あんたの立場を心配して戻れって言ったのよ、カカシ先生は」
「オレの、立場?」
「ああ、もう! ナルトがカカシ先生と恋人宣言した時の事を思い出しなさいよ。上層部がどれだけ騒いだと思ってるの。師匠が何とか宥めてくれたけど、そりゃあ凄かったんだから」
「そうだったっけ?」
「ったく。カカシ先生、何も言わなかったけど、上層部からかなり言われてたみたいよ? 別れろとか何とか」
「ホントだってば?」
「師匠の話によると、かなり酷かったみたい。四代目の事まで引き合いに出されてたって…」
「オレ…何も聞いてない…」
「ナルトに心配かけたくなかったんでしょ」
何も知らなかった。カカシはいつも飄々としてたし、自分の前では笑ってくれていた。
付き合い始めた時からカカシはいつか別れる事を前提で、どこか寂しげだったのだ。別れる事を考えて欲しくなくて婚姻届という手段に出たのだ。放すつもりもなかったから。
上層部から別れろと言われながらも自分の傍に居てくれたカカシ。
自分を大切に想ってくれているからこそ、傍に居てくれたんだろうに、それなのに自分はカカシを疑って傷つけて…。
謝らなければ、とナルトは執務室を飛び出して行った。
まったくとため息を吐きつつ、頑張れと小さくエールを送るサクラ。


「ごめん、サクラちゃん」

その場に残っていた影分身が謝る。その勢いで出て行きそうになるのをサクラは遮った。


「あんたは残んなさい」
「え? オレもカカシ先生を探しに…」
「そんなのは本体に任せとけばいいの。あんたはこっちの仕事を片付ける!」


首根っこを押さえつけられた影分身のナルトは、しぶしぶ机に戻る。
こっちは影分身だってバレないように誤魔化してあげるから、ナルトはちゃんとカカシ先生に謝って仲直りしてくるのよ。とサクラは小さく呟いた。




カカシの気配を探り、カカシが上忍寮にいる事を確認したナルトは真っ直ぐ向かう。早くしなければと、気ばかり焦り、寮までの短い距離がいつもの倍の距離に感じられた。
カカシの部屋に辿り着いた時、案の定結界が張られていた。


「やっぱり……。そりゃ会いたくないよな…」


でも、ここは何がなんでも謝らなければ永遠にカカシとはこのままだ。
ナルトは解術を試みる。
と、今度は前回と違いすんなり解けた。
恐る恐るドアを開け、カカシの気配のする寝室を覗く。
が、そこにカカシの姿はなかった。確かにカカシの気配がしたのに。
部屋中探してが居なかった。風呂にもトイレにも。
何処に行ったんだってばよ…。
ナルトは部屋を出て、里中を探し、駆け回った。
が、里のどこにもカカシは見つからなかった。


「どこに行ったんだってばよ…」


ナルトは途方に暮れ、慰霊碑の前で立ち尽くしていた。






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