夫婦喧嘩 5
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カカシがシャワーを浴びて一息ついているとバタバタと足音が聞こえ、勢いよくドアが開く。


「センセー! お帰りだってばよ!」


ナルトは飛びかかるようにカカシに抱きついた。もう、少しでも早くカカシを抱きしめたかったのだ。
久々に感じるカカシの温もり。仄かにシャンプーの香りも鼻をくすぐった。


「お前…、少しは落ち着きなさいよ。火影がどたばた足音させてどうするの。それに仕事は終わったのか?」
「仕事は影分身に任せてあるってばよ。それにセンセーにようやく会えたのに、落ち着けってのが無理だってばよ」
「仕事が影分身!? お前、何考えてるの? こっちが影分身ならともかく、仕事を疎かにするな」
「影分身だって、ちゃんと仕事してるってば。そんな事より、オレは一刻もはや…」
「ナルト」


カカシの目が座っている。
まずい、
と思った。
カカシは普段エロ本を人前で堂々と読むような、ちゃらんぽらんに見える所もあるが、基本かなり真面目なのだ。
仕事にきちんと取り組まないと大目玉をくらう。ある意味、綱手の拳より怖いかもしれない。まあ、実際殴られた事はないが、カカシの一睨みに震え上がった事はあるのだ。そして今、カカシの静かな怒りに晒されている。

カカシとてナルトに会いたくなかったわけではない。ひと月前、ナルトを部屋から投げ飛ばして、仲直りもせずに任務に出たのだ。気にならないわけがなかった。
一刻も早く自分に会いたかったというナルトの言葉を嬉しく思う。
けれど、ナルトは火影なのだ。里の事を一番に考えなければならない存在。
それが一介の忍に現を抜かした等と噂が立ってはナルトの為にならない。
火影が某かの弱みを握られる事があってはならないのだ。


「仕事に戻れ。きちんと終わらせてから帰ってこい」
「カカシ先生…、オレといたくないってば?」
「は?」
「一緒にいるの嫌なのかよ?」
「お前ね…訳分からない事言ってないで、さっさと仕事に戻れ」
「やっぱり一緒に居るの嫌だってば? オレなんかより、ヤマト隊長の方がいいってば?」
「はあ? なんでここにヤマトが出てくるのよ?」


ナルトは唇を噛み締める。カカシが帰って来た時の姿が甦る。ヤマトと楽しそうに話すカカシの笑顔。
ふと妖狐の言葉を思い出す。

『結婚指輪も嵌めてくれぬが?』

『お前も飽きられて捨てられるのではないか? 新しい男もいるようだしな』

『カカシはもてるんだろう?』

ぐるぐると嫌な言葉が反芻される。
と、クックックッと九尾の笑い声が聞こえてきた。


ほらみろ…やはりカカシには男がいるのだ。お前と居たがらないのが何よりの証拠…


嘲りが脳内に響く。大声で違うと否定したいが、声が出ない。
怪訝そうにナルトを見つめるカカシ。
やがていつまでもこうしていても仕方がないと、カカシが口を開く。


「ほら、早く仕事を終わらせておいで。影分身と一緒にやったら終わるのも早いだろう?」


カカシがやんわりとナルトの身体を押し、仕事に戻るよう促す。
その仕草に、ナルトの中で再び疑念が持ち上がる。
カカシ先生、そんなにオレと居るの嫌だってば?
オレじゃない誰かと居たいってば?
ナルトはカカシの手を握ると、乱暴に寝室まで引っ張って行き、ベッドに組み伏せた。


「ナルト!」


カカシが咎めるが、その声にますます疑念が深くなる。
シャツの襟元から覗くドッグタグ。そこにかけたはずの指輪は見えなかった。
それがナルトに拍車をかけた。


「センセーはオレ以外にも男いるってば? だから指輪も外したのか?」
「…なんだって?」

カカシは驚きに一瞬目を丸くするが、その瞳に怒りを滲ませナルトを睨み付ける。
カカシの怒りに図星だってば?と、ナルトは続ける。


「そいつと寝た? オレより満足させてもらったってば?」


カカシの顔が険しくなっていく。
ナルトは自身の言葉に傷つき、その傷を抉るように更に言葉を重ねていく。


「そいつより、オレの方がいいって思い知らせてやる。嫌だと言っても許してやんない」


口づけようとナルトの顔が近づく。
カカシはナルトの拘束を振り払い、拳でナルトを殴る。ナルトの目から火花が散った。


「……った〜、何するってばよ…」


チカチカする目許を押さえ、半分驚きながら文句を言うナルト。
火花が散る程強く殴られたのは初めてではないだろうか。


「ナルト…お前は……」


カカシの唇がわななく。
震える声に揺れる頭を押さえながらゆっくりカカシを見れば、カカシは怒りに顔を歪め、なのに瞳は悲しげにナルトを見ていた。


「カカシ先生?」


殴った後、自分の下から抜け出し己を見つめるカカシに声をかける。
けれど、カカシはそれ以上何も言わず、ゆっくりと目を伏せて部屋を出て行った。
「カカシ先生っ!?」


ナルトは呆然とカカシの出て行ったドアを眺めていた。


「何なんだよ…」


何でカカシ先生が怒って出て行くってばよ。
オレは先生に会えるの楽しみにしてたのに。なのにカカシは仕事に戻れと言う。
オレといたくないから、そんな事を言ったのか?
オレじゃない、新しい男が出来たから?
オレの事はもう飽きたってば?

考えはぐるぐるとそんな事ばかり駆け巡る。
ナルトは大きな大きなため息をついた。






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