夫婦喧嘩 4
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その良く晴れた日の青空のような青い瞳に映されたもの──。

愛しいカカシの姿。

ただ、カカシは一人ではなかった。
新カカシ班の隊長だったヤマトと共に歩いていたのだ。
途端にナルトの顔が険しくなる。
カカシは優しい顔をして、楽しそうにヤマトと話をしながら歩いていた。
それが悔しい。自分はこんなにもカカシの帰還を待ち焦がれていたのに。
そんな自分より先にカカシはヤマトに笑いかけ、楽しそうに話をするなんて。
カカシ先生が笑っていいのはオレだけだってばよ…。
窓枠に置いた手に力が籠り、指先が白くなる。ギリギリと歯ぎしりまで聞こえてきそうな程、歯を食いしばり二人を睨め付ける。
視線に気付いた二人はナルトを見上げる。と、カカシはよぉ!とにっこり笑って手を上げた。
だが、二人は急ぐでもなく、のんびりと執務室へと向かっている。それが更にナルトを苛つかせた。

(そんなに二人でいたいってば? オレとは1ヶ月ぶりっていうのに、どうでもいいってば?)

分かっている。カカシがそんな事、露ほども思っていない事は。
だが、我慢ならなかった。
自分はカカシの帰還をあれほど待ち望んでいたというのに。その綺麗な笑顔を自分に、自分だけに向けて欲しかったのに。
なんでカカシは他の、夫である自分以外の人間に笑顔を向けるんだ。

腹の中の妖狐が嘲笑う。

お前が想っている程には、お前は想われてはいないのだな。

分かってるってば!そんな事は…。カカシ先生の一番にはなれない事くらい。
けれど、それでも。婚姻届に署名してくれたんだ。

戸惑うカカシを説得し、寄り添って生きていこうと誓った。

結婚指輪だって嵌めてはくれぬが?

だけど!肌身離さず身につけてくれてる。

どうだかな。

黙れ!

本当にお前の事を愛しているならば、指輪くらい嵌めてくれそうなもの…。

黙れってばよ!

カカシはもてるんだろう?

煩い!

未だに男からも女からも告白されて、味見してから捨てるんだってな…くくっ…。

……………。

その内、お前も飽きられて捨てられるんじゃないか? 新しい男もいるみたいだしな。

黙れって言ってんだってばよ!

九尾の言葉は重くナルトの心にのし掛かった。
里内に流れるカカシの良くない噂。僻みによるものや、フラれた腹いせにデマを流す輩がいる。
オレはカカシ先生を信じてる…。
でも……。
いくらヤマトとはいえ、自分以外の男と楽しそうに、あんな優しい顔をして笑うなんて。
片目しか見える部分がなくても、ナルトにはカカシがどんな表情を浮かべているか判る。
九尾はわざとナルトの不安を煽る言葉を選んで言っている。そして不安を煽って楽しんでいるのだ。
そう分かっていても、ナルトの心に一抹の不安、疑念が生まれていった。




コンコンと軽やかなノックの音の後に、失礼しますと二人が揃って入って来た。

(あらら…ナルトったら凄い不機嫌?)

入って来た二人をムスッとした顔で見るナルトに、カカシはナルトがかなり機嫌が悪い事を知る。
が、カカシには何故、ナルトが険しい顔をしているのか分からない。
里に戻って来るのも予定通り。怪我もしてないし、チャクラだってそれなりに残っている。
う〜ん、何が原因なんだろう?
まさかヤマトと一緒に歩いていた事が原因とは夢にも思わないのだろう。
カカシはやや首を傾げながら考える。
ま、後で聞けばいいでしょ。
カカシ達を見るナルトのその顔に驚くも、それはおくびにも出さず、任務終了の報告をする。
ナルトは火影の顔に戻り、報告を聞く。カカシの柔らかな声が耳を弄っていく。久しぶり聞くその声。先ほどの不安等も消えていくような、心が軽くなるような、そんな感覚にとらわれた。
報告と共に提出された報告書。カカシのちょっとだけ癖のある、綺麗な字で書かれている。無駄のないその報告もカカシらしさを感じる。
こんな所にも自分はカカシを求めていたのかと、ナルトはどんなにカカシに依存しているのか、改めて自覚するのであった。


「お疲れだってばよ。カカシ先生は明日は休み。ヤマト隊長は、明日、夜中からまた指名で任務入ってるから、よろしく頼むってばよ」
「了解しました」


二人揃って頭を下げ出ていく。それにちょこっとムカつきながら、先ほど提出されたカカシの報告書に再び目を落とす。
ヤマトのと見比べながら、やはりカカシの字は好きだなと思う。
久しぶりにカカシに会って、本当は直ぐにでも抱きしめたかった。
昔のようにどこででも飛び付いて、抱きしめて、「おかえり」と言いたかった。
火影になる前まではカカシもそれを許してくれていた。が、火影になったのだから、一人の忍にそんな事をするのは立場上よくないと諭され、以来していない。
但し、それは周りに人がいない時だけ。二人っきりの時は好きなだけ抱きしめ口づけていた。カカシも仕方ないと苦笑しながらも受け入れてくれていた。
今日も二人っきりだったら良かったのに…と思いながら、サクラに睨まれる前にと目の前の書類を片付けるべく手を伸ばした。
もっとも二人っきりだったら、キスだけでは済まなくなるなと心の中で笑いながら。






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