夫婦喧嘩 2
3p/30P



布団に潜り込んでもカカシは直ぐには眠れなかった。
ショックだった。
ナルトが己以外の誰かに自分を抱かせる事に。

ナルト、お前は平気なのか?オレがお前以外の誰かに抱かれても…。いくらお前の身体とはいえ、相手は九尾だぞ?

カカシにとって九尾は愛するミナトの命を奪った憎い仇でもある。そんな奴の相手など出来るわけがない。
ナルトが九尾をコントロール出来るようになったのは嬉しい。でもその事でナルトと九尾をイコールで見る事はない。
ナルトが腹の中の九尾と上手くやってくれるならそれにこしたことはない。が、それで自分を与えるというのは…。
カカシは自分が供物にでもなった気分になった。
はあ…と大きなため息が口から漏れる。
ナルトは信じろと言った。自分も信じると答えた。
けれど、このような事があると揺らいでしまう。
自分はナルトからは他人に与える事が出来る程度にしか愛されていなかったのかもしれない…と。
ここまでショックを受ける程、自分はナルトを愛していたんだな。ミナトへの、あの激情のような愛とは違うけれど。
それでもお前が好きだよ、ナルト…。
カカシはまんじりともせず夜明けを迎えた。



シャワーを浴びて、少し気分が落ち着いてからカカシは執務室へと向かった。
結界はシャワーを浴びる前に解いてある。
高ランク任務や極秘任務等は火影邸の執務室で受けることがほとんどだから、夕べ任務から帰って来て入れなかった忍や日勤の忍やらが出勤して火影邸は賑やかだ。
ただ火影がまだ出てきてない為、任務帰りの忍は報告出来ないままでいる。
カカシが執務室前に辿り着けば、そこにたむろしていた忍達が一斉に駆け寄って来る。


「ああ、カカシさん!六代目がまだいらっしゃらないんですが、何かご存知ですか?」
「まだ来てない?」


どうしたんだんだろう?
結界は既に解いてあるし、ナルトの事だから直ぐにでも入って来ると思ってたのに。そういえば騒がしい気配はないな…。拗ねてどこかに行ったか?
あのミナトでさえ朝は必ず顔を出したのに。途中でいなくなる事はままあっても。
ナルトとて執務はきちんとこなして来たのだ。こんな事は初めてではないだろうか。
まさか火影を投げ飛ばして追い出したなどと言える筈もなく、そこにいる忍達には分からないように一つため息を溢すと、カカシはニッコリと笑いかけた。


「間もなく来ると思いますので、差し障りがないものは私が預かりますが…?」
「あ、お願いします。自分は何の問題もなく終わりましたので」
「そう、それはよかった。怪我もないようですね」
「おかげさまで」


普段から火影の秘書的な仕事をしている為、カカシが報告書を受け取る事も普通に行われた。
極秘任務の方はさすがに見る訳にもいかず、その任についた忍には申し訳ないがナルトが来るまで待ってもらうことにした。
そうこうしているうちにサクラがやって来た。
サクラはナルトではなく、カカシが座っていることに怪訝な顔を向ける。


「ナルトはどうしたんです? カカシ先生。まさか夕べのまま?」
「うん、まあ……。夕べって?」


サクラが泣き喚くナルトを殴り倒した事など知らないカカシは、すっとぼけようとしたのだが…。


「ナルト、夕べ火影邸の結界の前で大声で喚いていたので静かにさせたんですよ」
「サクラ…」
「ナルト、何をやったんです?」


まさかセックス中に九尾と入れ替わられたとも言えず、カカシは笑って誤魔化そうとした。が、サクラの追求は終わらなかった。


「結界まで張るなんて、尋常じゃないですよね? それって、ナルトがカカシ先生に何か無体を働いたからじゃないんですか?」
「ん、まあ…ちょっと…」


なかなか鋭いなあと感心しつつ、言葉を濁す。
ナルト以外に、好きな人以外に抱かれるのは、触れられるのは嫌だった。
そんな事を思ったなどと例えナルトにだって言える訳がない。いい年こいたおっさんがそんな事を思ったなんて、乙女じゃあるまいし、恥ずかしいじゃない。
カカシはそう心の中でごちて苦笑い。


「ナルト、里中に響く大声で喚いていたんですよ? 『先生ごめんなさい』って」


クスクス笑いながらサクラが話す。
里中に?
そんな大声で喚いていたのか?
カカシは目を丸くする。


「…それでサクラはナルトを?」


カカシから手刀を受け、サクラから鉄拳を食らったのでは、いかにナルトといえどただでは済まないだろう。無事でいるのか些か不安になる。


「だって、安眠妨害だし…」
「ナルト、その後どうしたの?」
「さあ? 暗部の護衛の方がいらしたから私は家に戻ったんですけど…」


そういえば屋敷の周りにも護衛は配置されていたな。そう思ったらふっと力が抜ける。ほう…と息を吐いて椅子に深く寄りかかった。


「そんなに心配ですか?」


ホッとした様子のカカシに、サクラはナルトの事を愛しているのね、と微笑ましく思った。


「ん? ああ、ナルトまだ来てないんだ」
「え? ナルト来てないんですか!?」
「そう、困ったことにね…。まあ、もうすぐ来るとは思うけど」


カカシはそう言いながら手元の書類に目を落とした。唯一晒されている青灰色の瞳に心配の色を滲ませている事に、本人は気づかぬまま──。









次#
*前


目次



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -