その瞳に映るもの
2p/6P



うわーという声と共にパチパチと拍手まで湧き上がる。それだけ期待が大きいのだろう。
けれど、カカシは一向に出て来ない。
拍手もまばらになり、皆どうしたんだと訝しんでいた頃、カカシは少し息苦しくなり出るに出られなかったのだ。


「ほらほら、カカシ先生、恥ずかしがってないで舞台出てください」

トンと肩を押され、たたらを踏んで舞台に出た。と、長いドレスの裾踏んずけてしまったカカシは、みっともなく転んでしまった……筈だった。
ぽすんとカカシが転んだ先はゲンマの胸の中。
戸惑い気味にゲンマを見上げ、目が合うと少しばかり恥ずかしそうに笑う。ゲンマも同じくにっこり微笑んで、カカシの額に軽くキスをした。
途端、キャーと悲鳴が上がる。男性陣も二人の姿に呆然としている。

ゲンマはカカシをエスコートするようにソファまで連れて行く。
ソファに腰掛けたゲンマの足元にカカシが座り込む。そしてゲンマの膝に手をかけ顔を乗せる。
これは先程打ち合わせした事ではあるが、会場からは声にならないどよめきが起こった。


もう女装大会などという事は頭の隅にすらないだろう。
ゲンマは優しくカカシの背を撫でている。その顔は少し心配げに歪み、それが何故か美貌を引き立てていた。

そこに居る者はうっとりと二人を眺めていた。
司会をしているナルトもカカシを熱い眼差しで見つめている。
と、ゲンマがカカシのカツラの髪をかき揚げ、首から肩にかけてのラインを皆に見えるようにした。
途端、会場らは歓喜と絶望とが入り混じった悲鳴があがる。カカシの項にはくっきり紅い痕が残っていたのだ。

『カカシ上忍、恋人いたんだ…』
『そりゃいるでしょうよ、あんなに素敵な人なんだから』
『なんかショック』
『相手は誰なのかしらね?』
『あたしよりブスだったら許せないわ!』
『それは大丈夫よぉ!』


会場ではひそひそとカカシの恋人について談義が始まっていたが、二人はそれに頓着することなく静かに座っていた。
ただ、カカシが少しずつ顔色が悪くなっていき、心なしか体温も低くなったような気がした。
ゲンマはカカシの頬に手を滑らせ上を向かせる。

「ゲンマ…も…ダメ…」


ゲンマだけに聞こえた小さな声。普段意地っ張りなカカシが吐いた弱音。これはかなり危ないかもしれない。ゲンマはそう判断し、結果も見えてるこの余興から立ち去ることに決めた。
カカシの脇に両手を入れカカシを自分と同じソファに座らせると、カカシの両頬に手を添え口づけた。

「オレのカカシ先生に何すんだってばよ!」

ナルトの叫び。会場で再びあがった悲鳴にかき消された。
それを無視し、カカシを横抱きに抱える。
それにさえ会場からはどよめきがあがる。美女が美女を抱えるという図に違和感はなく、かえってその美しさに感嘆の声さえ上がった。


「ナルト、わりぃ。俺もう我慢出来ねぇわ。あとはよろしく」
「えっ?あっ!?」

もう、恋人と早くいちゃいちゃしたいといった風体で、さっさと舞台袖に引っ込んでしまった。
会場では、退場してしまった事へのブーイングやらなんやら起こっていたが、今のゲンマには構っていられなかった。カカシがぐったりとしてしまっていたから。


舞台袖に控えていたサクラに一声かけ、先ほど着替えた部屋に入っていった。


「サクラ、カカシが冷え切っている。診てくれ」



「カカシ先生、何か飲まされたんですか?毒とは少し違うようですが…」カカシを診たサクラの顔が怖い程真剣になる。

「…酒だけだけど…酒に何か入ってたかな?」


何者かがカカシに薬を飲ませたというのか─。
命が狙われたのだろうか…。

いったい何故?何の為に…。















月の光のみが差し込む病室で、ナルトは椅子に座ったり立ったり、かと思うとうろうろと歩き回り落ち着きがない。
病室には、サクラの手当てのおかげで一命を取り留めたカカシが眠っている。
結局、カカシの酒に薬物を入れた者は分からずじまいであった。
ナルトには、里内にカカシの命を狙う者がいるなんて信じられない事であった。
カカシは写輪眼の持ち主でビンゴブックに載る程の里一番の実力者だ。
その上物腰も柔らかく、普段は片目以外隠れている素顔も口布を外せば、例えようもない美貌が現れると噂が立っている。
里では人気ナンバーワンの忍。そんなカカシを狙う者。妬みか、或いはカカシが自分のものにならないなら殺して自分も死のうとか考えるバカな奴か。
いずれにしろ、カカシはこの里でも安心は出来ない境遇にいる。

ナルトはその事実に愕然とした。自分の愛する人が安心して住めないなんて…。



「オレが里を変えてみせるから…、オレが先生のこと守ってみせるから…」


眠っているカカシの頬をするりと撫でれば、うっすらとカカシの瞳が開く。



「カカシ先生っ!気がついたってば?」



月明かりを背にしたナルトの顔は暗くて見えない。その代わり、光を浴びて煌めく金の髪がカカシの瞳に映る。
その時、驚愕にカカシの瞳が開かれ、カカシは逃げ出そうと暴れ出した。
ただ、薬のせいで思うように身体は動かなかったが…。


「あっ…や、やだ…見ないで…センセ…や…」

「カカシ先生っ!どうしたんだってばよ!落ち着いてくれって…」

「は…離してセンセ……やだ…オレを見ないで…」

「カカシ先生、オレだってばよ!よく見て…」


やだ、やだと言う言葉も今のカカシから聞くには些か幼く感じられる。
ベッドの上で暴れるカカシを落ち着かせようと、カカシを押さえ込もうとした時、ガラッと扉が開きサクラが入って来ようとした。
が、扉の開く音に振り返ったカカシの顔を見た途端、その動きはピタリと止まった。
カカシの赤い瞳からツ…と涙が一筋流れ落ちたのだ。


カカシはナルトの腕を振り切り、バサッと布団を頭から被ってしまった。
その様子にサクラから怒りのオーラが溢れてナルトに向かう。

「ナ〜ル〜ト〜」

「ごっ誤解だってばよ!サクラちゃん!」



サクラはむんずとナルトの襟首を掴み、病室から引きずり出す。

「あんた、カカシ先生に何したのよ!?」
「な、何にもしてないってばよ!ただ頬を撫でただけだって」
「それで、どうして先生が泣くのよ?」
「わかんねぇ…オレ知らない間に何かしちまったのかな…?あ…」
「何?」
「カカシ先生、オレのこと見て“先生”って言った…」


「…ナルトを先生?」

「…多分、オレを四代目と間違えたんだろうけど…」
「それで泣いた訳?」
「やっぱ、違うかな?」
「違うんじゃない?それ位で泣かないでしょ、普通。他には?」
「他にはって?」
「もう!他に何か言ってなかったの?」
「え〜と…見るなとか離してとか…」
「見るな?」
「うん…」

「何だろう?カカシ先生、ホントに何があったのかしらね…ナルト、あんた心当たりないの?」

「全然ないってばよ。オレ、先生と会うの1ヶ月ぶりだし…」
「あのキスマーク、ナルトじゃなかったの?」
「あれは、オレ…って、ええっ!?ななな、何で知ってるってば?」
「あんた見てれば分かるわよ」
「あっそう…。何か落ち込むってばよ…」
「それで?1ヶ月ぶりに会っていつ付けたのよ?」
「それは、旅館ついて直ぐ。久しぶりに会ってあつーい夜を過ごす筈だったのに…だっ!」

ナルトはサクラの一撃に床に沈んだ。




「少しは加減してくれってばよ…」



「何やってんだ?ナルト」


ナルトが床と仲良しになっている時、やって来たのはゲンマとシカマルであった。
二人はカカシが心配で見舞いに来たのだが、もう一つ、とある事を伝えに来たのだ。
それはあまり気分のいい内容とは言い難く、二人はどうやって切り出そうか悩みながら来たのだった。



「カカシさんは?」

「あ〜…」
「どうしたんだ?」
「えっと…その…」
「ナルトがカカシ先生を襲いかけて、泣かせたのよ」
「襲ったって…お前…」
「違っ!誤解だって!オレは潔白だ!」
「潔白のクセに何で泣かせたんだ?」
「だから、違うんだって。カカシ先生はオレを四代目と間違えて…」
「そんなんで泣くわけねぇだろ」

シカマルにまで殴られる。

「じゃあ、なんなんだってばよ…」


シカマルとゲンマが顔を見合わせる。


「あ〜、この間の任務が原因かもしれない…」

「任務?どんな?」

二人は大きく息を吐く。

「お前はそれを聞いてどうするんだ?第一、お前がそれを聞いて冷静でいられる可能性はゼロだ」

「ど…どんな任務だったんだってばよ…」


















次#
*前


目次



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -