花狂宴



満開の桜の下、花を愛でつつ酒を酌み交わす。もう既に出来上がっている連中に囲まれて、カカシは慣れない酒をちびちびと飲んでいる。


「カカシ、赤ん坊が出来たら知らせるんだぞ?」
「は?」
「お、儂にも教えるんだぞ。ちゃんとお祝いしてやるからな」
「なに?カカシ、お前赤ん坊が出来たのか?」
「出来ませんよ! 第一、オレ男ですよ? 妊娠自体ありえないですよ」
「いや、お前なら素で妊娠出来そうだ」
「綱手先生…いくら何でも無理ですって」


(いくら酔っ払ったからって、赤ん坊はないでしょ…)


「う〜ん、カカシの赤ちゃんならきっと可愛いね」
「センセまで…」
「ね?ね? どっちに似ると思う? オレかな?お前かな?」
「だから…」
「カカシ、心配しないでも私がちゃんと産ませてやるからな。安心していいぞ」
「え?綱手姫、お産婆まで出来るんですか?」
「ああ、任せとけ。カカシの子供は、私がちゃんととりあげてやる」
「儂の妻のビワコもおるしの」
「なら、安心だのォ」
「なんだと!? 自来也! 私では不安だと言うのか!」
「そんな事言っとらんだろうが。ビワコ様も付いていてくださるなら、安心だと言っとる」
「ほら、やっぱり言ってるじゃないか!だいたいお前は…」
「綱手姫、自来也先生はそんなつもりじゃ…」
「ああ゛? だったらどんなつもりだ!?」


酔っ払いの会話はカカシの赤ん坊から自来也へと移っていく。
カカシは、そんな大人達の会話に翻弄されながら、時折舞い落ちる桜の花びらを眺めていた。その顔にどこか悲しみが浮かぶ事に、その場にいた誰もが気づく事はなかった。

酒宴も終わり、それぞれが家路につく。
カカシもミナトと共に帰り着けば、玄関に入った途端口づけられる。
カカシがイヤイヤと首を振れば、髪に付いていたのだろ桜の花びらがふわりと落ちた。


「いや?」
「だって…」


俯いてしまうカカシに、玄関先では嫌なのだろうと解釈し、ミナトはカカシを抱え上げ、寝室へと連れていく。
ベッドへ横たえ、口づけても反応はやっぱり薄かった。


「どうしたの?」


問い掛けてもカカシはだだ首を振るだけ。
仕方ないねと、カカシを起こし横に座る。


「ね、本当にどうしたの? オレ、何かした?」
「…違…」


ますます下を向いてしまうカカシ。ミナトは根気よくカカシの言葉を待った。


「…センセは…女の人がいいんでしょ…?」
「へ?」
「…だから、オレを女にしたいんでしょ?」
「はあっ? 何で…待ってよ。どこからそんな話になんの? カカシを女に?」
「だって!…さっき赤ちゃんが出来るって…。センセだって…言ってたじゃない。それって、オレを女に変えるんでしょ? センセは、やっぱり女の方がいいんでしょ!」


カカシは言いながら激昂していった。少し涙を滲ませながら。


「何で女の方がいいことになるんだよ。オレには、カカシがいれば十分なんだよ?」
「だって、センセは赤ちゃん欲しいんでしょ!だったらオレなんかじゃなくて…」

そこまで言うと、パチンと軽い音と小さな痛みがカカシの頬に走る。


「センセ?」
「カカシ、オレの話聞いてなかったの? オレは、カカシがいいって言ったんだよ? 赤ん坊が欲しい訳じゃない」
「だって…」
「『だって』はもういらないよ。赤ん坊って、綱手姫がからかっただけだよ? 分かってるだろう?」
「だっ…、センセがどっちに似てるとか、綱手先生はお産婆さん出来るとか…。だから…オレを性転換させて…」
「馬鹿だなあ…カカシ。カカシが性転換しちゃったら意味ないだろ?オレが愛してるのは、このままのカカシなんだから」


そう聞いても、まだ不安げにミナトを見上げるカカシ。
カカシは常に不安なのだろう。年下で師弟で同性で。おまけに今は身分まで違う。
ミナトに来るたくさんの見合いの数々。それもカカシは知っている。
そして今夜の赤ん坊騒動である。

純情なカカシは変な風に考えを巡らせてしまったのだろう。女であれば、堂々と傍にいられる。そんな考えもちらっと頭を過ぎったかもしれない。


「不安にさせてごめんね、カカシ。
ねぇ、カカシ。オレは男だからとか、女だからとかでお前を愛したんじゃないよ? お前だから。カカシだから愛したんだよ? それを忘れないでね」


ミナトはそう言うとカカシの頬をそっと包み、ゆっくりと口づけた。



春の夜の朧月の柔らかな光の中、時折舞い落ちる桜の花びらが二人の愛の営みを彩っていた。






11.04.08






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