管理人の願望(テンカカ)


「助かって良かったな」


にっこりと笑って、きちんと診てもらえよと言ってあっさり去って行った。
そう、あっさりと。
それが恋人に対する態度なのかと些かむっとしたが、心なしかその背中が寂しげに見えたのは気のせいだろうか。
ようやく会えたのに、抱きしめる事もキスする事も出来ず、せめてゆっくり話がしたかったのに無情にも先輩は去って行った。
先輩はそんなに嬉しくなかったのだろうか…。そういえば、そんなに嬉しそうな顔じゃなかったような…。
僕は落胆を隠して検査を受けていた。
数日間に及ぶ検査にもカカシ先輩は顔を出さなかった。
僕の事を心配してはくれなかったのだろうか。敵に捕まるような僕は、もう恋人としていらなくなったのだろうか。
先輩と会えない分、僕の心は疑心暗鬼に染まって行った。
ただ、先輩に会えなかったのは僕だけでなく、ナルトやサクラ達も会えていないとか。
戦後の後処理で先輩は西に東に奔走してるようだ。
戦争中先輩は部隊長を勤めていただけあり、また火影にもなりかけた事、頭の回転の良さなど諸大名や五影達からの信頼も厚いようだ。
そのせいで先輩はなかなか解放してもらえないらしい。
あの人の事だ。自分の事は顧みずに、他人の為に動いているのだろう。
そう思えば、会えない寂しさをため息に変えて耐えるしかない。
それでも、やっぱり会いたいと心のどこかで思ってしまう。
こんな弱さが敵に捕まる等という失態に繋がるのだろうと少しばかり反省をする。



漸く検査も終わり、異常もない事から自宅に帰れる事になった。
ペイン襲撃の復興の中、慌ただしく里外に出てしまった為家にはろくな家具はない。
まあ、最低限人が住めるようになっているだけだ。
一通りシャワーを浴びて一息ついていると、結界を破りずかずかと入って来る人物。
僕の結界を安々と破れる者は少ない。この気配は会いたくて堪らなかった僕の愛しい人のもの。
僕は頬が弛んでしまうのを止める事が出来なかった。
が、入って来たカカシ先輩の顔は険しい。つかつかと僕に歩み寄ると、いきなり殴ってきた。


「何するんですかっ!」
「うるさい!」


カカシ先輩は尚も僕に殴りかかって来る。僕は必死によける。
いくら退院したとはいえ、体調が万全ではない今、カカシ先輩から続けて殴られたのではたまったものじゃない。


「ちょ…落ち着いてください!」


何とか避けながら叫んでも聞こえていないかのように殴り掛かるのを止めない先輩。
どうしたんだろう。こんな事今までなかった事だ。
カカシ先輩の顔を良く見れば、怒った顔なのに、その色違いの瞳は今にも泣き出しそうだった。
その顔を見たら、泣きそうな先輩を何とかしてやりたくて、後ずさるのを止めた。
先輩の握り拳がパシンと小気味良い音を立てて僕の掌に修まった。
先輩は潤んだ瞳で僕を睨み付けてくる。
その顔が壮絶なまでに美しいと、呑気に頭の片隅で思った。
と、先輩の顔が少し歪む。僕の掌にあった拳はするりと解かれて、そのまま僕の首へと廻された。
そうして僕に縋るように僕を抱き締めた。



「…どれ程心配したと思ってるのよ…」


涙で掠れたような声に返す言葉が見つからない。
僕はただすみませんとだけ言って、カカシ先輩を抱きしめ返した。


ああ、カカシ先輩の温もり…。布越しに僅かだが、カカシ先輩の鼓動を感じる。
生きてて良かった…。
生きて帰って来られて、本当に良かった…。



「心配かけてすみません…。もう、あんなヘマはしませんから…。ずっと貴方の傍にいます。ずっと…」




僕は愛していますとカカシ先輩に口づけた。




12.01.17






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