銀狐 (ナルカカ)




『あの子と遊んじゃダメよ』
『近寄るんじゃありません』


そんな心無い言葉が幼い心に突き刺さる。
金色の小さな子どもは、それでも平気なフリをして一人で遊ぶ。


『さあ、もう帰る時間よ』
『もう?もっと遊びたい』
『今日はパパと食べに行こうか』
『やったー!』


幸せそうな会話を耳にして子どもは立ち上がり、帰っていく親子を見つめる。
ちらりと振り返る親子の目には、嫌悪の色。その冷たい瞳を受けたまま、ただ突っ立って親子が消えていくのを見ていた。

沈んでいく夕日に自分の身長よりも大きくなった影が伸びる。


「オレは一人で帰れるってばよ」


金色の子どもはそう強がって呟いた。
それでも、こみ上げてくる言いようのない寂しさに胸が締め付けられる。
霞む目元を袖でぐいと拭き取って、子どもは走り出した。けれど、それは家とは違う方向。

闇雲に走って来た為、どこか知らない場所に来てしまった。

知らない森の中。


帰らなくちゃ…。


そう思うけれど、どうしたら帰れるのか分からない。
途方に暮れて、それでもトボトボ歩いていると、大きな木の根元に誰かがいる。
誰だろう…。

すっかり日も沈み、月明かりだけの心許ない光の中で、銀色に光る髪と狐の顔。

狐は自分を見ても何も言わなかった。
それどころか、興味がないとばかりにフイと顔を背けた。

自分を見てくれないのは、他の大人達と変わらなかったけど、その細い姿からは嫌悪する気配は感じ取れなかった。
金色の子どもは銀の狐の隣にストンと腰を下ろし膝を抱える。
何か言われるだろうかとドキドキしながら。
しかし、狐はやはり何も言わない。
それが安心したのか、それとも寂しかったのか、子どもは何故が分からずに涙が出てきてしゃくりあげる自分が不思議だった。
しばらくしゃくり上げていると、くしゃりと頭を撫でられた。
そんな事をされたことのない子どもは驚いて顔を上げると、頭を撫でているのは隣に座っている狐だったのだ。
子どもは優しいその手に、何故がいろんな感情が押し寄せて来て、狐に抱きついて思いっきり泣いた。

狐はやはり黙ったまま、子どもの背を優しく撫で、抱きしめていた。
しばらくすると、子どもからは泣き声ではなく、寝息が聞こえ始めた。泣き疲れて眠ってしまったのだろう。


銀色の狐は子どもを抱きかかえると、子どもの家まで飛んだ。
子どもをベッドへ寝かしつけると、金色の髪を一撫でし、闇へと消えた。



10.03.21






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