テンゾウの場合 A


テンゾウのとんでもない看病のおかけで、1日長く床に伏せる事になったカカシ。ようやく任務に復帰すれば、今度はテンゾウが風邪をひいた。
カカシの風邪が移ってしまったのだろう。自業自得だとカカシは思ったが…。



テンゾウは久々の風邪に参っていた。熱と喉の痛み、咳は幸い出てないが、熱のせいか頭が痛い。
自分がこうなってみて、初めてカカシが風邪ひいた時の状態を思いやる事が出来た。
看病だと言いながら随分と酷い事をしてしまった。辛そうだったカカシの顔を思い出す。なんで我慢しなかったのかと後悔しきり。
そんな所へカカシがやって来た。


「カカシ先輩!? どうしてここへ?」
「あらら…酷い声だね。どうしてって、お前が風邪ひいたって聞いたからさ。お見舞い」
「先輩…」


テンゾウは感動していた。
あんなに酷い事したのに、自分の所に見舞いに来てくれるなんて…。愛されてるんだ…。
じんわりと心の中が暖かくなる。見舞いになど来てくれる筈もない、そう思っていたからだ。


「薬と薬膳粥作ってもらってかたから。今、温めてくるから、待ってて……と、お前、メシ食ったか?」
「いえ、まだ…」
「そ。ちょうど良かった。じゃ、待っててちょーだいね」


再びの感動。
見舞いだけでなく、薬と粥まで…。
ん? 待てよ。“作ってもらって”と言ってなかったか?
些か心に引っ掛かるものがあったが、いい匂いがしてきたのと、今カカシがそれを温めているという現実にそれは心の隅に追いやられた。


「お待たせー。熱いから気をつけて食べてね」


カカシは一人前用のちいさな土鍋を盆に乗せて戻ってきた。それをテンゾウの膝の上に置く。


「いい匂いですね」
「でしょ? お前が風邪ひいたって聞いたから、風邪に効く薬と粥を頼んだんだ」
「え? カカシ先輩の手作りじゃないんですか?」
「そうよ? 病気の時は、その道の専門の人に聞くのが一番でしょ?」
「まさか…」
「そ、サクラに頼んだのよ。サクラったら、テンゾウが風邪ひいたって聞いたら快く作ってくれたのよ。サクラもテンゾウの事、心配してたよ」
「そうですか…」


テンゾウの心境は複雑だ。
同じ班の仲間として心配掛けたのは申し訳ないと思う反面、嬉しいとも思う。こうして薬や粥まで作ってくれるのは有難い。
が、サクラの場合、味度外視の上、効能重視なのだ。良く効くだろうが、その味に耐えられる自信は全く無い。


「冷めちゃう前に食べちゃってよ。せっかく作ってくれたんだから」
「……いただきます…」


ニコニコと笑うカカシにひきつった顔を向け、粥を掬う。テンゾウは覚悟を決めて口に運んだ。
が、直ぐにその覚悟は甘かったと判る。
とてもじゃないが、飲み込めたものじゃない。
吐き出したい。
が、カカシがじっとテンゾウの様子を見てる。その心配げな様子に、何とか飲み下した。
カカシは自分を心配して、サクラに頼み持ってきてくれたのだ。口には出さないカカシの愛情を感じ、カカシの心配を少しでも減らす為に。
一口飲み下したテンゾウに、にっこりと笑いかけるカカシ。


「それは残さず食べちゃってね。3食分あるから、後できちんと食べるんだぞ。食べ終わったら、この薬な。4種、4日分あるから。忘れずに飲めよ?」


と、恐ろしい事を口にした。そしてテンゾウが全て食べ終えるまで、じっと見つめていたのだ。
テンゾウは、いったい何の拷問だろうと思う。
そして、ふっとカカシの言葉が甦った。


『覚えてろよ…テンゾウ…』


気を失う寸前のカカシの言葉。
もしかして、あの時の復讐を今、されているのではないだろうか?
だから、サクラの薬と粥なのではないか。
カカシとて知っている筈だ、サクラの手料理がどんなものか。だからこそ、わざわざ頼んだのではないか?
そう分かると合点がいく。恨みがましい目をカカシに向ければ、カカシはニヤッと笑った。


(カカシ先輩は僕への愛情で頼んだのではなく、復讐の為に頼んだんですか?)


そう問い質したい気持ちではあったが、結局は自分がしでかした事への結果なので黙っている事にした。
だって、あの時のカカシ先輩は凄く可愛いかったんだ。頬を赤く染めて瞳が潤んでて…。
そう思っても後の祭り。
が、自分への愛情もあると、少しは信じたいテンゾウであった。





11.11.02






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