10月10日 (ナルカカ)
あれはいつだったろう…。
二人で月を見上げたのは…。
とても綺麗で澄んでいて…冬の月のような冷たさは全くなくて。
『きれい…』
そんな言葉も飲み込んで、ただ並んで黙って窓の外を眺めていた──。
今夜の月を眺めていたら、ふとそんな昔のことを思い出した。
そんな思い出に浸りながら眺めていたら、急にザアッと葉が鳴き出した。
みるみるうちに雲が空を覆い、美しかった月を隠してしまった。
それはまるで思い出に浸るのを許さないかのように。
天気はあっという間に変わり、激しい雨が窓を叩きつける。
静寂は打ち破られ、ざわざわとざわめく葉音に、バチバチと叩きつける雨音。
ハーモニィとは程遠い音に加え、腹に響く雷鳴を轟かせ稲妻が走る。
澄み渡った空は何処へやら。
まるで己の心の内を再現しているかのような嵐の夜となった。
それでもボーッと激しい雨を眺めていると、ドンドンと雨にも負けない激しさで玄関ドアを叩く音がする。
開けてみれば、ずぶ濡れになったナルトがニカッと笑って立っていた。
「先生が泣いてるんじゃないかと思ってさ」
心配になって来てみたと生意気な口を開く。
こんな日は、静かにミナトの事を想っていたかったが、それさえ出来ないのかとため息が出る。
「泣いてなんかいないよ。お前の方こそ、雷が怖くて一人でいられなかったんじゃないの?」
そんな憎まれ口がつい出てしまう。
ずぶ濡れのナルトを風呂場に追いやり、コーヒーを煎れる。
湯を浴び、さっぱりとしたナルトが髪を拭きながら出てきた。
「…服、用意しといたでしょ?」
「パンツがねぇ」
「それくらいガマンしなさいよ」
「センセー抱けるんなら我慢する」
「…バカ言ってんじゃないよ」
コーヒーを渡しながらそんな軽口をたたく。
さっきまでの沈んだ気分が浮上してくるから、一人ではないのは良いことなのだろう。
一口飲んだ後、ナルトは軽く口づけてくる。啄むだけの軽いキス。
「なあ…いいだろ…?」
「…ダメ…」
唇を寄せたまま囁くと、周りの空気が密度を増していく。
何度も何度も啄んで、身体を密着させていく。
「オレ、誕生日なんだぜ…?」
「それ…明日でしょ…?」
「…じゃ、前夜祭」
強く抱きしめ深く口づけようとした時、閃光とともに耳をつんざくような雷鳴が鳴り響いた。近くに落ちたのだろうそれは、ビリビリと窓ガラスを震わせた。
それと共にお互いがビクッと身体を震わせた事に、お互い目を合わせ笑い出す。
「やだねぇ。こんな事で驚くなんて」
「お互いさまだろ?けど、すっげぇデカイ雷だったな」
「えっちするなって、怒ったんじゃない?」
「そりゃねぇってばよ」
くすくすと笑いながら、それでも抱きしめた腕は離すことなく、お互いの温もりを感じ合う。
「しょーがないから、今日はこうして抱きしめるだけで我慢してやるよ。けど、明日はオレの誕生日だし、願い事叶えてくれよな?」
「願い事って?」
「センセーと朝から一日中乳繰り合うこ…っで!」
カカシの鉄拳が飛ぶ。見ればカカシは頬を染めている。
「馬鹿言うんじゃない!」
「えー、だって、男のロマンじゃん!いいじゃん、誕生日なんだから!叶えてくれたって」
知るか!と顔を真っ赤にさせたカカシが、ナルトの腕の中から抜け出し寝室へと逃げ込んだ。
それを追いかけ、無理矢理ベッドの中へ入るとカカシを抱きしめた。
「…少しなら……いいよ…」
「え?」
胸の中から小さな声が聞こえた。
「…さすがに一日中はもたないからね……。でも少しだけなら…付きあってやる…」
そう言うとカカシはナルトの胸に顔を隠すように埋めてしまった。
白銀の髪の間から覗く耳が朱くなっているのが分かる。
カカシの精一杯の言葉。それでもそこにカカシからの愛情を感じ、心が嬉しさで一杯になる。そしてカカシへの愛情が溢れ出てくる。
それを言葉として表すには難しくて、ただ抱きしめる腕に力を込めた。
「ありがとう、センセー。愛してるぜ」
何を言ってやがる、と言わんばかりに稲妻が走る。空気を震わせながら雷鳴を轟かせ、二人を叱るように光を走らせる。
しかし、心満ちた二人にはどこか遠い所の出来事のように感じられた。
トクトクと規則正しい鼓動を互いに聞きながら、優しい微睡みの中へと誘われていった。
10.10.09
前 次
戻る