迦具夜比売
真夜中、カーテンの隙間から差し込む月明かりの光で目が覚めた。
ふと隣を見れば、いるはずの人物がいない。
怪訝に思い辺りを見回せば、床に座り込んだカカシが月を見上げている。
その顔は何故か憂いを帯びていて、ドクンと胸が痛む。
今にも泣き出してしまいそうな瞳で月を見上げ、ゆっくりと細い腕が延ばされていく。
まるでかぐや姫が天を恋うるように。
その姿は今にも儚く消えて行ってしまいそうで、物語のかぐや姫のように月へと帰ってしまうのではないかと思わせた。
その想いが焦りと変わり、焦燥感に駆られるままカカシの腕を引き寄せ抱きしめた。
「セ、センセ?」
驚き目を見開くカカシに言葉を掛けるでなく、ただただ抱きしめた。
そんなミナトをあやすように、カカシはミナトの背中をポンポンと撫でさする。
カカシの冷たく冷えた身体が温まってきた頃、ようやくミナトは口を開いた。
「お前が、光に溶けてしまうように見えた…。月に帰ってしまうんじゃないかと…」
「月? センセは詩人だね。月に帰るのは…」
あなたでしょう。
その言葉は心の中にしまい込んで、ミナトの肩をそっと押す。
そしてミナトを見つめ、ミナトの頬を両手で挟むと微笑みながら言った。
「…かぐや姫だよ…」
そう言うとカカシはミナトに口づけた。そっと啄むだけの優しいキス。
その口づけを受け入れながらミナトは心のどこかで淋しさを感じていた。
『かぐや姫だよ』
そう言って微笑むカカシの顔は悲しそうだったから。
分かっている。カカシにそういう顔をさせるのは自分だという事を。
それでも文句も言わず自分に寄り添ってくれるカカシが愛おしい。
こうして二人口づけたまま、十五夜の月明かりに照らされて光に溶け合えてしまえばいいのにと、願わずにはいられなかった。
10.09.21
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