鬼 (テンカカ)
さわさわと緩やかな風の日の夜、僕は鬼を見た。
桜の木の下、僅かな月の光を浴びて、その鬼はまっすぐ僕の方を向いていた。
けれど、鬼は僕など見てはいなかった。しっかり目があっているのにもかかわらず、鬼は遠くを見ていた。
それはとても悲しそうな瞳だった。
夜のような暗い色した瞳と紅い瞳。その瞳に僕を映して欲しいとさえ思った。
鬼はとうとう僕を見ることなく、白い髪を煌めかせて桜の中へ消えていった。
ああ、彼は桜の鬼だったのかと、子どもだった僕は信じた。
今なら精霊とかの言葉も出てくるけれど、当時はまだその言葉も知らなくて、ただ単に鬼と思ったのだ。
きれいな鬼。悲しい鬼。
怖いとは少しも思わずに…。
桜舞い散る夜の僅かな思い出。
それがカカシ先輩との、最初の出会いだった。
10.03.10
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