映画で妄想 (テンカカ)
「おいっ!おい、起きろ!こんな所で寝てるとミイラになるぞ!」
「……ん…君は…?」
「…大丈夫か?何だってこんな所で呑気に寝てるんだ?」
「寝てるわけじゃ…」
訝しげに自分を見る子供。
このカカシ先輩に似た子は誰だろう? まさか先輩に隠し子が!?
「君はカカシ先「気安く人の名前を呼ぶな。任務中だ」
…カカシ先輩本人らしい。
「なんでそんな姿に?」
「そんなって…ガキだとばかにするな」
「いや、そんなつもりは…。小さな頃の先輩も可愛いですよ」
「お前、何を訳のわからない事言ってるんだ?」
「いいんですよ、照れなくても。それより、此処はどこなんです?」
「どこって、楼蘭だろう?頭でも打ったのか?」
「ええっ!?楼蘭!?そんなばかな…確か廃墟だったはず…」
「廃墟?お前、目は確かか?一度里に帰って綱手先生に診てもらえ」
テンゾウは話の食い違う事に戸惑いながら、フルに頭を回転させる。
廃墟ではなく、美しい塔が立ち並ぶ都。
幼いカカシの姿。無愛想で口が悪く、まだ両の目が同じ色。
綱手を火影ではなく、先生と呼ぶカカシ。
あの龍脈に墜ちた時、時空を越えて過去にでも来てしまったのだろうか?
そういえば、ナルトはどうしたろう?
「僕はもう一人とこっちに来たんだけど、知らないかな?金髪で青い瞳の少年なんだけど」
「そいつなら、センセから女王を守るよう言い遣ってたよ」
(やっぱり、ここは過去の世界のようだ。しかし、ナルトはこんな所に来てまで何を巻き込まれているんだ?ムカデを探さなきゃならないってのに…)
「じゃ、オレは任務があるから」
踵を反すカカシを慌てて引き止める。
「あっ、ちょっと待って!」
「何だよ」
その時、ズゥゥンと塔が崩れ落ち、カカシ達のいる所まで地響きが響く。
カカシの顔色が変わった。
「センセッ!」
瞬時に飛び出して行くカカシ。
「待って!君一人じゃ危ないから!」
走るカカシの隣につき、守るように一緒に走る。
目の前にチョウザ達が倒れているのが見えた。
「チョウザさん!シビさん!」
「ああ、カカシ君。すまない、アンロクザンを止められなかった…。今、奴は女王を追っている。ミナトとナルトとかいうボウズがくい止めている筈だ。追ってくれ」
「分かりました」
示された塔へとひた走る。
階段を駆け降りれば、ガラガラと足元から崩れ落ちる。
「危ない!」
テンゾウが落下するかカカシを抱き留め、安全な所に着地した。
「…ありがと」
「どう致しまして。まだ下で戦っている。気をつけて行くよ」
「ああ」
駆け降りていく最中、ミナトのチャクラを感じた。
「センセのチャクラだ!早く!センセが戦って…うわっ!」
再びの崩壊。ミナト達の足元も崩壊し、地下に飲み込まれて行くのが見える。
「センセー!」
「木遁!」
抱き抱えられたカカシが見たものは、右腕から伸びる木。
まるで紐のように伸びるそれは、落ちていく三人を包み込んで救い出した。
テンゾウの腕の中で、ホッと安堵の息を漏らすカカシ。
テンゾウは腕の中のカカシの軽さに驚いていた。
こんな華奢な身体で大人顔負けの任務に就いていたのか。そしてその瞳はまっすぐ師へと注がれている。憧れと尊敬を込めて。
カカシは自分の事などかけらも見てはいない。
チクリと胸が痛む。
本来、この時代は出会ってもいないのだから、傷つくこと自体間違っているのだろうが…。
「こいつは、門の所でぐーすか寝ているのを、オレが助けました」
憎たらしい事を言うので、ついゲンコツを喰らわせてしまった。
「何で殴るんだよ」
「いや〜、日頃こき使われているから、ちょっと腹いせにね」
カカシを殴るなんて、自分の時代に戻ったら考えもできないことだろう。
段々と薄くなっていくカカシに手を上げて挨拶する。この小さなカカシの記憶は戻れば消えてしまうけれど、それでも、自分の記憶の中に少しでも留めておきたいと願わずにはいられなかった。
気がついた時には何も覚えていなかったが、無性にカカシに会いたかった。
会って抱きしめたかった。
綱手への報告を済ませると、真っ先にカカシの元へと向かうテンゾウであった。
10.08.07
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