七夕
「おかえり、任務ご苦労様」
執務室に入った途端掛けられた労いの言葉。
「ただいま、センセ。はい、報告書」
「ん。ケガもないようだし、なにより。はい、今度はこれ書いて」
「え? 短冊?」
「そ。今日は七夕だろ?」
「…雨、降ってきたよ?」
「ええっ!?」
ミナトは驚いて振り返る。窓の外ではぽつぽつと雨が降り出していた。
2時間前までは晴れていたのに、とぼやく。
「残念でしたね。オレ、帰って何か作って待ってます」
「ん。オレも早く帰れるよう、頑張るよ」
カカシは、にっこりと微笑むと窓から出て行った。
カカシが執務室を出た時はぽつぽつだった雨も、家に着く頃には土砂降りの雨に変わりずぶ濡れとなってしまった。
浴室に入り湯を張る。ゆっくり浸かってしまうと動けなくなりそうで、自身はシャワーだけで済ます。どうせミナトが帰ってくれば一緒に入る羽目になるのだ。
簡単に髪を乾かし、ご飯の支度を始める。
冷蔵庫を開ければ、挽き肉と海老。それと何故かエビチリのソースが入っていた。
(あー、これ和えるだけで簡単に出来るやつだ。レトルトになってるのに、何で冷蔵庫に?)
買ってきた物を何でもかんでも冷蔵庫に入れたミナトに苦笑する。
(とにかく下ごしらえだけしとくか…ん?)
カカシが食材を出していると、ひらりと一枚のメモが落ちた。
拾い上げるとミナトの字でいろいろ書いてある。
「えーと、エビチリ、ハンバーグ、唐揚げ…って、センセの食べたいものじゃん。肉しかないし!」
それでも、イベント好きのミナトの為にせっせと下ごしらえを始めるカカシであった。
それが全て終わり、フゥと息を吐きながら時計を見れば、ミナトが帰って来るにはまだ早い時間だった。
(センセが帰って来るまで、ちょっと寝てようかな)
ベッドへ横になると、身体が凄く重く感じた。疲れてるんだなと目を閉じれば、あっという間に夢の中へと誘われた。
ようやく仕事を終え家に帰り着いてみれば、明かり一つ点いてはいなかった。
不信に思いながらも家に入ってみれば、カカシは既に夢の中。
しかし、冷蔵庫の中には料理の下ごしらえしたものが入っており、浴槽には湯が張られている。
ミナトはカカシの心遣いが嬉しくなり、寝ているカカシを起こさないよう注意しながらカカシの用意した料理の仕上げにかかった。
いい匂いに目が覚める。
気がつけば、寝る前には掛けていなかった肌掛けが掛けられている。ミナトが掛けてくれたのだろう。
カカシは慌てて台所へと向かった。
「あ、起きた? もう少しで出来るから、待っててね」
「ごめんなさい、オレ寝ちゃって」
「いいよ。任務で疲れてるんだから仕方ないさ」
「でも…オレ、作るって言ったのに…」
「気にしない、気にしない。一人で作るより、一つの料理を二人で作るっていいと思わない?」
そう言って、ミナトは戸惑うカカシに満面の笑みを向けたのだった。
10.07.07
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