あなたへ
(K-side)
もしもオレに告白する勇気があったなら、今もこうしてあなたに囚われずに済んだのだろうか──
まだ少年だったあの日。
偶然センセが女性といるのを見かけた。その瞬間、オレの身体は凍りついたかのように動かなかった。いや、動けなかった。
きゅうと胸が締め付けられ、苦しくて…。何故苦しいのか、その時は解らなかった。
その夜遅く帰って来たセンセが照れながら言った。
「彼女が出来たんだ」
オレは何と答えたんだっけ? ショックで頭が考える事を拒否してて覚えていない。きっと「そうですか」とか、可愛げのない事を言ったんだろうと思う。
その夜、ベッドの中で訳も解らず泣いていた。
眠れぬ夜を過ごし、朝陽を目にした時、オレは自覚したんだ。
センセが好きだ──と。
でも遅かった。センセには既に彼女がいた。
好きだと自覚したと同時に失恋だなんて笑ってしまう。
オレのこの想いは告げる事なく、この胸の痛みと共に永遠に闇の中に消えていく──その時はそう信じていた。
胸の痛みを抱えたまま時は過ぎ、これ以上傷つくこともないと思っていた。ところが──
「オレ、結婚することに決めたよ」
「赤ん坊が出来たんだ」
嬉しそうに告白するセンセ。オレは上手に笑顔を作れたろうか?おめでとうと言うことが出来たろうか?
まるで悪夢を見ているかのようだった。
里中が四代目火影の婚礼に湧きかえっている中、オレは心が冷えていった。
凍えたまま、一人膝を抱え蹲る事しか出来なかった。
ガタガタと震えるオレを温めてくれる人は─もういない。
オレはオレの心に蓋をして、偽りの衣を身に纏う。
偽りの衣は重すぎて、いつしかオレは笑うことを忘れていった。
その衣が馴染んだ頃、あなたは突然やって来てオレを抱いた。
あなたがどういうつもりでオレを抱いたのか知らない。あなたは睦言の一つも言わなかったから。
例えどんなつもりでも、ただの性欲処理でも構わなかった。あなたと一つになれたのが嬉しくて…。
「愛してる」という言葉はすんでのところで飲み込んだ。あなたの重荷になるつもりはなかったから。
けれどあなたは翌日、永遠にオレから去っていった。
「愛してる」
その言葉を残して。
オレは驚きのあまり声も出ず、結局想いを告げられたのは、あなたが鼓動を止めた後だった。
冷えていくあなたを抱きしめて、オレは何度も口づけた。
どうして……あなたを失うくらいなら、自分が死んだ方がマシだったのに。
あなたが最后に残した言葉。
想いあっていたなんて…
どうして最後に…生きているあなたに伝えられなかったのか…。
どうしてオレはいつも後悔することばかり…。
ごめんなさい、センセ…
ずっとずっと好きでした。
あの日からオレの時は止まったまま。
そして今も…
愛しています…
fin.
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