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下よりお礼小説!
現在は私の推し、真波くんです。
死にたい、死にたい、死にたい。
だけど死ねない、
_____かみさまのいじわる。
涙目のアリス
「…っ、ひっく、」
止まらない涙。
幼馴染みと登下校しているだけでどうしてここまでされなくちゃいけないの、なんて。
びしょびしょになった制服やローファー、カバンを見て嘆く。
教科書は当然ぐちゃぐちゃのボロボロ、祖母からもらったお守りもズタズタ。挙げ句の果てには、今日は髪まで切られてしまった。
「……っ」
伸ばしていた長い髪は、肩上までバッサリと切られて。それも、右部分だけざっくらばんに。
こうなってしまえばもうどうしようもできない。
美容師に頼んで、あんなに大事にしていたロングヘアーとも今日でおさらばのようだ。
「……」
こんな姿でどうしたらいいの。
教室にも戻れない、いじめを疑われてしまうから保健室にもいけない。
もしこのことが、尽八にバレちゃったら。
優しい優しいあいつは、きっと一生気に病むんだろう。
噂程度に又聞きした、あの人の好きなロングヘアーを切ってしまうことに抵抗はあるけど、こんな姿であの人に会うくらいなら、綺麗に切ってしまおう、なんて。
どうにかしてばれないように学校を出るため、涙でぐしゃぐしゃの顔を前髪で隠し、震える肩を押さえ込んで、
グッと足に力を込めて立ちあがった、その時。
ぐら、
歪んだ感覚と、大きな声をあげて私の方へとやってきてくれる人が見えた。
「(ああそうだ、私、昨日から貧血なんだった…)」
気付いた時にはもう遅く、私の瞼は重たく閉じられていった。
私のことを優しく包み込むその人が、誰なのか知りもしなかった。
*
「……ん…」
自然に目が覚めて、うとうとしながら目をこする。すると、ベッドの横の椅子に腰掛けて、私のお腹あたりに頭を乗せながら伏せる男の人がひとり。
「……?」
誰だろう、と思案して、記憶の最後に残る私に声をかけてくれた人だろうかと思案する。
ということはここは保健室、もしくは病院ということになる。濡れていたことがバレては行けないと青ざめたが、制服は着ておらず、なぜかジャージ姿だった。
「……え、ジャージ…?」
身に覚えのないジャージ。うちの学校は体操服にしか名前が刺繍されてないから、ジャージは学年別の色に分けて判別する。そして、今自分がきている紺色のジャージは、一年生のものだった。
年下のジャージなんておかしいなあ、なんて思いながら貧血で痛む頭を少し抑えていた時。
私の声と身動きで目が覚めたのか、私のお腹周りにいた人はそっと身動きし、もぞもぞと動いたかと思うと、数秒停止してがばっと体を起こした。
あまりに勢いがつきすぎて、当たったら痛いだろうなと顔を顰めつつもその人の顔を覗き____________こもうとして、気がつく。
「………え、あの」
「…あ、起きたんだ」
今会いたくない人No.2がそこにいた。
真波山岳くん。
私がひっそりと憧れ続けた、幼馴染みの尽八と仲良しの後輩。
授業態度は微妙みたいで、よく色んなところで寝てるのを見つけるけど。
ロードに対しては貪欲で、責任感が強くて。
アイツはもっと育つぞ、と尽八が自慢げに話していたのを、今でもよく覚えている。きっかけは尽八だったけど、それからIHを見に行って、私はあっという間に恋に落ちてしまったのだ。
「おはようございます。…目、覚めてよかった」
まだ寝ぼけた目でふんわりと微笑む、憧れの人。
ほうっと見とれてしまったけれど、よく考えれば私、髪の毛は切られて制服はびしょびしょで、顔も涙でぐちゃぐちゃではなかったろうか。
「…っご、ごめんね…!た、助けていただいたみたいで…!」
思わず顔を背けると、隣の彼からは溜息が一つ。
さすがに失礼だったか、と諦めて彼の顔を見れば、彼は一瞬を頬を赤らめて、だけどすぐに真面目な顔をした。
「…何があったの」
「………」
やっぱりそれを聞かれてしまうよな、と。
だって当たり前だ。女子トイレの近くでびしょびしょで、髪も切れてるし、何より醜い。
そんな汚い私を運んでくれただけ、ありがたい話だ。
「…なんでも、ないよ。手を洗おうとしたら、蛇口が外れて…濡れちゃって」
「……」
「慌てて誰か呼びに行こうとしたら、貧血がぶり返して…それだけ」
「…髪は?」
「…そ、れは…今朝、自分で間違えて切っちゃって、」
「嘘つき」
また一つ、溜息をついた彼は、そっと…私を、抱きしめた。
「どうして庇うの?
_____俺、全部知ってるよ」
「え?」
「君があの化粧の濃い女の子たちに虐められてたこと。東堂先輩の幼馴染みだからって色目使うな、って」
「…どうして…」
「そう話してるのを聞いたから。
いつ虐めに遭ってるのかわからなかったから、色々と探りを入れて…
今日、初めて倒れていく先輩を見つけたとき、俺、血の気が引いたよ」
間に合わなかったかと、思った。
そう言って私を抱きしめる力を強くする彼の顔が気になって、目線だけ上にあげる。
「…あんまり見ないでください、センパイ」
恥ずかしいから、って私の腫れた目に蓋をするように、手を当てる。
真波くんは、なぜ私のことを知っていたのだろう。
確かに、尽八と毎日行き帰りしているし、部活も同じなのだから、存在自体は知っていても不思議じゃない。
でも、まさか。
「どうして、虐めのことまで…」
「…ずっと、見てたんだ」
「?」
「東堂先輩と一緒に、笑いながら帰っていく…センパイのこと」
「え、」
思わず漏れた声にくすくす笑った彼は、そのまま蓋をしていた手を退けた。
「東堂先輩のそばで笑うセンパイも、困ったようにはにかむセンパイも。ちょっとふてくされたり、泣きそうになったり。
そんないろんなセンパイを…全部見てたんだ」
「…!」
「好きなんです」
やっぱり照れくさそうな彼は、そのまま私の頭を自分の胸元に引き寄せて、強く抱きしめる。
「だから守りたかったんだ。
どんなに酷いことされても、東堂先輩の隣で精一杯、笑おうとするセンパイのこと」
「…そんな、」
「無理してるんじゃないかなってハラハラして。けど幸せそうでもあって」
俺のしてることは迷惑なのかもって思ったりね。
そう言って自嘲気味に笑う彼に、私は精一杯首を横に振った。
「そんなことない!…助けてくれて、ありがとう」
「…うん、その言葉が聞けてよかった」
こちらこそ、ありがとう。
そう言って笑うあなたに、今度は私が伝えなくちゃ。
_________ずっと前から好きでした。
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