遙様に捧げました@
気配がして金吾はゆっくりと瞳を開ける。
すると目の前にはクナイの先端があり、それはブルブル震えながら下へと落ちた。
ぐしゃりと気味の悪い音を立てて何かが倒れる。
陰った月が晴れて照らし出された部屋。
まず光るは赤く染まった刀の刀身で、それはすぐに真っ黒い鞘に隠されたのだ。
足袋が明かりに映る。
見上げれば目元だけ出した真っ黒い影がそこに居た
影を見上げたまま、再び金吾は瞳を閉じる。
すれば気配は濃厚となり、頬にざらついた指先が伝った。
「…死にたかったか?」
あ、怒って居るのだと金吾はとっさに瞳を開けた。
すると目の前に広がるのは影の顔。
鼻筋が通った端正な顔が間近にあり、薄い唇から漏れる吐息が金吾の唇に触れた。
まさかと金吾は呟いた。
「小平太が死なせないだろう?」
細い瞳が益々細まる。
瞳に揺らぐ光は怒りではなく…
「待たんか!はしたないぃ!!」
結った髪を解かれて押し倒された金吾と、金吾を押し倒す小平太の2人を止めるのはとっても聞き覚えのある声。
開けるだろう襖の方角を予想して視線を向ければ、いやいやこっち、と相変わらずの馬鹿力で180度首を曲げられた。
「相も変わらず鈍いな」
「お陰様で首の関節は軟らかくなりました。」
流石は現役の忍びだと、首が曲がった方の襖が盛大に開かれて嗚呼やはり金吾の父である武衛が飛び込んできたのだ。
「小平太!一万歩譲って、お主は金吾に仕えているのだろう!主君を押し倒すでない!!」
「はっ!大変失礼致しました、義父上様」
「義父と呼ぶなと申して居るだろう!!」
ギャンギャン喚く武衛は金吾の乱れた胸元を正しながら、まだ早いまだ早いと呪文のように繰り返しており、それにブーブーと唇を尖らせて小平太は腕を頭に組んだ。
「よいか、金吾…お前はまだ齢十六なのだ。まだまだこれから出会う縁があるだろう…若くして道を違えるなど…」
ぐっだらぐっだらと毎回毎回聞かされる説教。
いい加減勘弁しては欲しいが、それでも大切な父の言葉なのだ。
金吾は極力はいはいと返事をする。
父が懸念している事は大人の仲間入りを果たした金吾にも良く解っていた。
しかも父が自分に注ぐ愛の深さも恥ずかしながら理解している。
だが…
「父上、お心遣いは感謝致しております。しかし私には先ぱ…小平太しかおりません。いくら縁があろうとも、この金吾、小平太以外要りませぬ。」
「金吾……」
「金吾…!」
野太い腕が金吾を包み、薄い唇が目尻に押し当てられた。
流石に実父の前で行為に及ぶわけには行かない金吾だが、あれよあれよと衣服を脱がされ押し倒される。
止めて下さい!と叫ぶ金吾を見ながら武衛は自分の身体から色が抜けて行くのを感じていた…。
(父親なんて!父親なんてなぁ!!)
(解りますよ、その気持ち。私の息子だって…し、しょう…しょうせいさんだってぇえぇ!!)
((父親なんて!父親なんてぇ!!))