島崎様 | ナノ

優先順位

ぽかぽかとした暖かい日差しに、八左ヱ門は目を細める。長屋の縁側での日向ぼっこは、眠気を誘う。
しかし、ぐりぐりと腹や背中に頭を押しつけられれば寝たくても寝れなくて。これが後輩や狼ならば可愛いのだが、存外強い力は腹を圧迫されて苦しいだけ。

「いい加減にしろよ。さっき食ったのが出るだろ」

本当はもったいないから意地でもしないが、効果があったのか腹と背中の圧迫は弱まった。
さて今のうちにすり抜けるかと膝を立てようとするが、それは腹に抱きつく兵助の声で止まる。

「はっちゃんは今日、豆腐食べてないから受け止められないのだ」

固まる八左ヱ門に追い打ちをかけるように、再度頭を背中に押しつけながらカラカラと勘右衛門が笑う。

「吐くのはなー。食べかけなら許す」
「……豆腐とか食べかけとかお前らどんな基準だよ」

二人の反応に呆れて、どっと力が抜ける。思わず体勢を崩して、寝転ぼうとする。
床に肩を打つだろうが、そんなの気にしなかった。
けれど八左ヱ門の体は床ではなくて勘右衛門の上にかぶさった。

「ダメだよハチ。肩、痛めたのだろう」

明るい声。けれど引き寄せるために引っ張った腕を勘右衛門は強く握る。

「昨日の演習、一つだけなら武器の持ち込みを許可されていたから、火縄銃くらい予想はしてたんだが」

ぽつりと呟き、兵助の白く細い手がそっと八左ヱ門の右肩に触れる。まるで壊れやすいものに触れるようだ。
昨日の夜に行われた演習で、八左ヱ門は火縄銃に肩を撃たれた。風上にいたために風下からの狙撃に気づかなかったのだ。 すぐに組んでいた雷蔵が追ったのだが、別の組に阻まれて追跡を断念した。

「や、でも演習は勝ったぜ。それに火縄銃のやつも怪我したから、おあいこっていうか、相手のほうが大怪我したし」

片方は笑って、もう片方は無表情。それでも両側から滲み出るずんっとした重い空気に焦る。
演習はそれぞれ組の中で三人一班で編成された。い組、ろ組、は組問わず一班一つ配布された札を三枚奪取する札取りである。
八左ヱ門は札を持っていなかったので、奪われる心配はなかった。今回は獣達を一切出さないで、微塵のみで前衛を担当した。
しかし負傷してしまい、三郎が苦い顔で計画を練り直す羽目になった。
それでも本番中の作戦変更は、三郎の機転で無事に札三枚を獲得できた。
そして学園に戻れば自分を撃った相手が崖から落ちたと知らされた。

「運がね、なかったんだよ」

ふふっと笑う勘右衛門に、ひっかかりを覚える。
けれど首筋に触れた息に意識がそれた。目を向ければ、重なるように兵助が八左ヱ門の上に乗り、顔を寄せていた。

「そんなことよりはっちゃんは早く怪我を治そう。完治するまで外出禁止だなんてつまらない」
「そうそう。うまいうどん屋ができたんだ。治ったらそこに行こう」

名案とばかりに提示された話に、他人の怪我の安否よりも八左ヱ門の胃は刺激される。
たいして時間が経っていないけれど、若い食欲は消えない。

「ま、治ったら行こうな」

優しく、甘い声をかけながら勘右衛門の胸に頬を寄せ、空いた手で兵助の頭を撫でた。
心地よいのか兵助はだらりと力を抜いて八左ヱ門にかぶさる。重くもないが軽くもない彼にまるで猫のようだと笑えば、何故だか下敷きになっている勘右衛門とともに二人でにゃーと鳴いた。



以下感想

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恐れ多くも踏み抜きまして…

キリリクを厚かましくお願いしました所、快く引き受けてくださいました!!

私、今までキリリクなる物をお願いした事無かったのですが…作品を作って貰えるのって凄く嬉しいですね!!


私も『キリリク頼んで良かった』と思って頂ける文章を作って行きたいです!
島崎様、色々ありがとうございました!

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