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▼まめ三郎様リクエスト(伝、金、鉢)


「鉢屋先輩は絶対に右ですよね!?」
「伝七!鉢屋先輩がお困りだろう!?その手を離しなよ!」
「金吾は左なんだろう!?一人で左の道に行けばいいじゃないか!」
「だから、右にはドクタケ忍者隊が居るかも知れないから危険なんだって!」

ちっちゃな牙を剥きだして、子供達は人を挟んでミャーミャーと怒鳴りあう。
あっちだこっちだと左へ右へ三郎の手を力一杯引っ張って…
普段から下級生達を可愛い可愛いと愛でている三郎と言ってもこれでは両手が千切れてしまう。

「そんなのドクたま達の嘘かも知れないだろう!?」
「いぶ鬼達がそんな嘘吐くもんか!」
「いくらドクタケ忍術教室の生徒達と仲が良いからって、嘘吐かれないとでも思っている訳?はっ!随分と御目出度い頭しているんだな。これだから、は組は…」
「むっ!!へー!い組って仲が良い相手にも嘘吐くクラスなんだね!僕、今後一生い組の言う事なんか信用しないから!」
「なっ!!っ…か、勝手にしろよ!!」

売り言葉に買い言葉の応酬が続く。
もちろん二人とも本心からの言葉ではないだろう。
しかしお互いの譲れないモノの為に、この戦いは負けられないのだ。
両者一歩も譲らぬ口喧嘩…それにストップをかけたのはもちろん三人の中で唯一年上である三郎であった。

「はいはい!喧嘩終了!二人とも、それ以上騒ぐと本当にドクタケ忍者隊がやってくるぞ?」
「「っ…」」


二対の大きな瞳が三郎を見上げる。
右に行くか左に行くか…三郎に決めてほしいと、彼らの瞳がそう言っていて……
さて、どうしようかな。
三郎は腰に手を当てて、目の前の別れ道を眺めた。



二人に出会ったのは忍術学園への帰り道の事。
『団子が食いたいのう』と、突然言い出した学園長の命令で町外れに新しく出来た茶屋に赴いていた、その帰りだった。
今日も今日とて雷蔵の面を被り、右手に学園長への団子と、左手に友や委員会の後輩達への団子を携え三郎が口笛を吹きながら山道を歩いていると
もうこの時点で「右だ!」「いいや左だ!」と、珍しい組み合わせの二人が言い争っていたのである。

二人の目の前には二手に分かれた道があり、右へ行くか左へ行くかで二人が揉めているのだ。
ただでさえ一年生には組違いの確執というものがあるのに…一体何の因果か、この子達はどんな経緯があって二人一緒にされたのか…
一年は組の皆本金吾と、一年い組の黒角伝七がお互いの手を引き合っている。

「別にどっちの道をとろうとも、忍術学園に帰れるのだからどっちでも良いじゃないか」
そう言い争いを仲裁してやれば
「ドクたまのいぶ鬼が右にはドクタケ忍者隊が集結しているって教えてくれたんです!」
そう金吾が言い、金吾の言葉に
「だから金吾はドクたまの言葉を信じているのか!?」
そう伝七が突っかかっていく……さっきからそればかりが延々と続き、それは三郎が二人に出会うより前から続いていたのだろう。


「友達を信じて何が悪いんだ!」
「相手は敵なんだぞ!」
「ドクタケは敵だけど、ドクたまの皆は友達だい!」
「だからっ」
「あーあーどうどう!落ち着けって…あーここに雷蔵がいてくれたら…」


仲裁する先、仲裁する先二人はいがみ合う。
今は三郎を間に挟んで言い争っているだけの二人だが、このままではその内取っ組み合いの喧嘩になってしまうだろう。
ギャイギャイと煩い二匹の口に学園長の団子を押し込み、三郎はようやく考える時間を得たのである。

「しかし何故ドクたまのいぶ鬼は二人がこの道を通ると知っていたのだろう」
「「ふぇ?」」
「町にお使いに行くにしろ、別にこの道だけが学園への道じゃあない…私はこの道が近かったからこっちを選んだが、お前達は偶々選んだだけだろう?」

そう、来るとも知れぬ者を何故ドクたま達は見つけたのだろう。
偶然にしてはタイミングが良すぎるのではないのだろうか…まるでこの道に二人が来る事を予想して待っていたようだ。


「いえ…僕は…土井先生に言われて…」
「僕も…こっちの道を通るようにと、安藤先生に言われ…」
「先生方から??」

なるほど。道理で二人が一緒にここに居る訳だ。
しかし、謎はますます深まるばかり…
教師ともあろうお方達が二人揃ってドクタケ忍者隊の動きを知らぬ筈がない。
ドクタケが忍術学園付近で不穏な動きをしている中へ、まだまだ幼い子供達を投げ入れる事など………

「……待てよ…もしかしたら…」

金吾、伝七、そうして自分。
今この場に集い、道を決めかね立ち往生している三人。
三人が忍術学園から離れ、一体どれ程時間が経っただろうか…。
何かの思惑があって三人がこの場に集められたとしたならば…三郎は首の後ろを一つ掻いた。

「右だ!」
「左だ!」

団子を食べ終え、再び言い争いを始めた子供達の手を引いて三郎は適当に右を選んだ。
伝七の喜ぶ声と、金吾の悲しむ声。
左右の耳で捉えた三郎は、金吾を見下ろし
「どっちでも良いんだよ。どっちも安全なんだからな」
と微笑みかける。


そう。
どちらの道を選ぼうともどの道にもドクタケ忍者隊は誰一人として居ないのだ。

金吾はいぶ鬼達に謀られたのだ。
どっちの道を選んでも、緩やかなその道の先で待っていてくれているのは………

「お、三人がやっと帰ってきたぞー」
「さぶろー!お前が居ながら何道草食ってんだよ!」
「金吾ー!騙してごめんねー!」
「伝七!お帰り!!」

忍術学園の友達と他校の友達、何よりも大切な皆や先生方や帰る場所だった。

門をくぐり、案内されるままに食堂へ招かれる。
すると皆が飾り立ててくれた何時もより華やかな食堂に、皆が用意してくれた何時もより華やかな食事が並んでいて…
未だ状況が解っていない金吾と伝七に、彼らの親友が偽りのない心からの言葉を掛けた。


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