偽りの笑顔と云う嘘を抱えて。


苦しそうに顔を歪めて、霞んでいるだろう視界で、そして信じられないという顔をして君は真っ直ぐ僕を見る。そして声を絞り出して僕の名前を呼ぶんだ。

「…ード…ッ」





ハッと目を覚ませば目の前に広がるのは見慣れた木造の天井で、外は微妙に明るく鳥の囀りが耳に入る。それなのに僕自身は汗をぐっしょりかいていて寝た気なんてしたものじゃない、夢なのにその感触がリアルすぎて恐怖さえ覚える。
人の首を絞める時はあんな感じなのだろうか、と思いながら時計に目をやればまだ5時前。あぁ、通りでまだ外に日が昇りきっていないわけだ。
だからといってもう一回眠りにつくのもさっきの夢のせいで寝心地が悪い、それに今から寝ても中途半端な睡眠時間しかとれない。夢のせいで汗もかいていることだし、そう考えると辿り着く選択肢は自然と一つだ。

(シャワーでいいか)


そうと決まれば行動するのみ、気だるい体を動かしてタオルと着替えを手にとりバスルームに向かう。正直あまり気が乗らないが汗のせいでベタついているしそのまま出勤するのも気持ち悪い。

「………」

水を浴びながら自分の手のひらを見ても、首を絞めたような痕跡は無いのに(まぁ、あっても嫌だが)感触は生々しい位しっかりと残っている。
一瞬自分で自分の首を絞めたんじゃないかと思って洗面所の鏡を見たけど自分の首にも絞めたような痕は見当たらなかった。
夢にしては、何もかもがリアルすぎる。

「…嫌な夢だな。」

そう呟いたのがAM6:00前だった。
髪や体を一通り洗って出た。いつもなら朝食をちゃんと作るけれど余裕な時間でも無かったからパンと水で軽く済ませいつも通りに軍服に着替えいつも通り出勤して城に着いたらアリスの元へ行く、はずだった。


「やぁ。」

気のせいかな、大嫌いな帽子屋が僕の家の玄関前にいるのは。

「…僕も歳かな。」
「君はまだ若いだろう。」

うん、帽子屋だ。間違い無く帽子屋がいる、色んな意味で会いたくない張本人が目の前にいる。

「ボクも女王に用があってね、一緒に行こうじゃないか。」
「勝手に行けばいいじゃないですか。」

そう伝えると彼は肩を竦めた、その素振りがわざとらしくて僕は不愉快な思いしかしないというのを知っているのだろうか、知ってて実行してるなら質が悪過ぎると思う。そうこうしてる間にも時間は過ぎるもので、相手をしているのも馬鹿馬鹿しくなってきたから無視して自宅を後にする。行き先が同じだから結局は一緒なわけだけど。


「何を隠してるのかな?」

後ろから無感情に問い掛けられて無視をすればよかったものを足を止めてしまった事を一瞬後悔した。けれど止めてしまったものはしょうがない、仕方無く後方にいる帽子屋の方を振り返った。

「なんですか、いきなり。」
「いや、何かを隠しているように見えたからね。何を隠しているのかなぁ、と思って。」
「…何も隠してません。」

そう言い放って前を向き直そうとすれば、腕を掴まれた感じがした。勢いよく振り向いたけど、帽子屋はさっきと同じ場所に立っていて僕の位置も変わってはいない。

「過剰に反応するね。」
「ッ!?」


とことん嫌な所ばかりついてくる人だな、と再認識した。こんな人と城まで2人っきりと思うと下がっていた気分が更に下がっていく、まぁ城までの我慢と考えればなんとかなるが。


「アリスの言った通りだね。君は自分の事は絶対に話さない、探られると嫌な顔をする。」
「…自分のことを探られて嫌な顔しない人なんていません。」
「確かに、でも君は反応が過剰過ぎるんだよ。」

アリスは何を帽子屋と話しているのかと思っていれば、よりによって僕の事だったのか。他に話す話題なんて沢山あるだろうに、何故よりによって帽子屋に僕の話題を。

「そのくせ隠すのが下手すぎる。」



うるさい



「そんな顔をさせている原因の一つでもある者に会いに行くのにね。」



ウルサい



「あの子が気付いていないとでも?」



ウ ル サ イ 



「五月蝿いなっ!アンタには関係ない!!これは僕の問題なんだ部外者は黙ってろよ!!!………僕だって……このままじゃいけないって、分かってる…。」


そう怒鳴り上げて呟いた時間は、AM9:00―














「珍しく、今日は遅かったんだな。」
「あー…朝、家事を色々してたら時間過ぎちゃってね。」
「…フーン。」





(そして今日も君の首を絞める夢を見る。)
本当の事を言えないまま偽りの笑顔でそんなやりとりをしながら、そう確信した。












帽子屋とスペードとアリス



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