弱小弱体


例えて云うなら怖い夢を見て泣き叫ぶ子供のような感じなのだろう。





側近護衛兵士になって、何年目だろうかと思えば思う程無力な自分に苛立ちを感じている。
あの頃はただ父親の病気を治したいが為に、母親の身体への負担を無くしたいが為に給料が一番安定している国家公務職である軍人になった、例え殉職してもその後の身内の生活も保証されているからだ。まぁ、簡単に云えば国家公務職=保険代わりみたいなものである。
そういえば物心が付いた頃から考えていたことは両親に楽をさせてやりたい、という端から見ればとても良い親孝行なんだろうが僕からすればただ当たり前のことを思っていただけである為そんなに褒められるような事でもない訳で“偉いわねぇ”なんて言葉を掛けられる度、何故これ位の事でみんな偉いと言うのかが全くわからなかった。といってもそんな言葉を投げかけられたのもまだ十歳だったからなんともいえないが…。
軍に入った頃はまだ現実を見ていなかったな、と最近つくづく思う回数がふえた。軍に入った頃はまだ十二歳で、周囲は史上最年少で合格したのに話題だったのを覚えている。

「なんでかなぁ…」


あの時は理想ばかり追い求めていた、今でもまだ変えたいという願望はあるけど昔程大きな物ではなくなった。
軍に入ればもっと人の役に立てる、希望を叶えることができる、誰かを救える、だなんて思っていた…でも現実はどうだ、どんなにまだ年齢が低くてもやることは他と変わらない。
書類に追われて自分の時間を潰すのは当たり前で少しのミスも許されるわけじゃない、頭の回転が速いからとかそれなりの功績があれば人の上に立つ。戦争や紛争等が起きれば当然軍人として駆り出されるのか当たり前。



(あんな早く人を殺めるとはな…)

目を閉じれば今でも鮮明に思い出す、人の皮膚に肉に食い込む感触、骨に当たって突っかかる鈍い感触、スッと腕を動かせばすんなり裂ける、驚いた。あぁ、こんなににも簡単にあっさり出来てしまうものなんだなぁ…とどこか冷静な自分と人を殺めてしまった、という罪悪感。
軍人になる=殺めるのは当たり前、だというのに…慣れは恐ろしいものだ。まだ十代前半だったからなのか、人を殺める度に夢に出てうなされていたのが気が付いたら夢を見なくなった。

(何が軍人だ、何が楽させてあげたいだ)


何も出来やしないじゃないか、何も変えられないじゃないか、無力な自分を思い知らされてるだけだ。

(クソ…ッ)
(楽させてあげる前に、守れなかった…)


足掻いてる、無様にも、不格好にも足掻いてる。守れなかった…その分新しく守りたいと思うものが今はある、でも…守れる自信がない、兵士のくせに自分で選んだ道のくせに、と自虐的になる。
嗚呼、まだ中身は子供だ。よくアリスに言われてるっけ…『一人で抱え込み過ぎだ』って。好きで抱え込んでる訳じゃないよアリス、言えないんだよ。相談したくても出来ないんだ。
臆病になった、弱くなった。それなのに欲しいものをただ欲する本能に忠実な子供のように小さく抵抗してる。



(何時まで保つのかな…)

僕の、細くもギリギリの精神は...



(なんて思う時点で折れてるのかもしれない)
この精神の糸は、持ち主に似て弱く脆い









スペード



[TOP]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -