先生とオレの補習授業




 試験が終わって地獄から解放されたのも束の間、お呼びの放送を聞いた。

「え゛、マジっすか…。」
「うん。」

昼休み、放送で職員室に呼び出され来てみれば古文が赤点という嬉しくない絶望的な報告をされた。
ああ、やっぱりちゃんと泉水に勉強見てもらえばよかった…あの時のオレに言えるのなら言いたい、勉強しとけと。

「他の教科はギリギリ赤点免れたみたいなんだけど…」
「なんで東先生がそれ知ってるんスか…」

担任でもない先生にも知られているというこの現実、辛い。
ってかギリギリなのかよ、これ泉水に言ったらオレ説教されるよ説教フラグだよ、泉水の説教長いから嫌なんだけどな。泉水怒ると怖いんだよな、静かに怒るから。

「それで、再試についてなんだけど…」
「再試!?再試は何点合格?!!」
「いや…今回再試は無いんだ。」
「え」

再試が無い?
つまりそれってオレ死亡フラグ成立ってことだよね?ああ、オレの青い春は終わったんだ短かったなオレの青春、さらば高校生活みんなオレのこと忘れないでね、オレはいつまでもみんなの心の中にいるぜ。

「再試が無いかわりに補習なんだけど、いいかな?伊庭君。」



         **



 「と、いうわけでオレは暫く君達とは一緒に帰ることが出来ません。寂しいのは分かるがここは我慢してくれ、大丈夫オレはちゃんと帰ってくるから信じてほしい!」
「別に寂しくない。」

次の日、オレは泉水と竜・要ちゃんといういつものメンバーで学食の窓側の席に座って昼食を食べていた。そこで補習の事を報告したのに泉水は相変わらずの冷たい言葉を投げかけてくる、何この子酷い。

「でも、古文だけで済んでよかったじゃないか。」

苦笑しながらフォローしてくれる竜が天使に見える、友達って大切だよね。

「うーん、でも古文って苦手なんだよなぁ…国語とはまた違う感じだし。」
「今回、古文の範囲ちょっと難しかったからね。」

要ちゃん、あれ“ちょっと”っていうレベルの難しさじゃなかったよ?オレ的にだけど。
周りが頭良すぎてオレ辛い…なにこれ辛すぎる。

「補習でも古文だろ、まだ担任的には優しいし良かったなガンバレヨ。」
「ちょっと泉水、最後一番感情込めてほしいんだけど。」

そんないつも通りのやりとりをしながら昼食を食べたけど、内心実はかなり凹んでた。
これでもし補習しても駄目だったらどうしよう、とか考えてたら別れる間際に泉水がオレの頭に手を置いてグリグリと乱暴にだけど撫でてきた。
ああ、やっぱり泉水には分かっちゃうんだなぁ…なんて思いながら少しだけ心が楽になった。
今日から一週間、補習頑張ろう!、と決心して午後の授業を放課後の補習の為に寝た。



         **



 さて、放課後になり場所が変わってオレは図書室にいるわけだ。図書室でも奥の窓側、人目に付かない所で今東先生と向き合ってタイマンを張ろうとしている。

「そんなに固くならなくても大丈夫だよ。」
「うっす」

東先生とのタイマンではない、古文とタイマンである。
プリントを貰ったけどハッキリ言おう、サッパリ分からない。なにこれ日本語?日本語なの?ゑってなにこれ、なんて読むの?むしろどうやって書くの?

「先生、諦める前に試合が終了してました。」
「うん、そうだろうね。」

なんとまぁ。
エスパーですか東先生、やだなにこの人凄い勝てる気がしない。

「じゃあ、教えるから分からない所があったら質問してね?」
「はい、先生一問目から意味分かりません。」
「うん、これはね…」


それから東先生に質問責めをしていたオレだけど、これがまた分かり易いこと。
先生説明の仕方上手すぎる、しかも休憩を凄くいいタイミングで入れたりしてくれて、頭がショートすることなく集中する事が出来た。

「はい、じゃあ今日はここまで。」
「終わった〜!」
「お疲れ様、一日目なのに凄い進んだね。」
「先生の教え方が上手いからっスよ!」
「はは、有難う。でも正直不安だったんだよ、伊庭君が赤点って聞いた瞬間教え方が駄目だったのかな?、とか…でも違ったみたいだね安心した。」

そう言われてしまうと授業中寝ていたことを申し訳なく思う、うおぉっ次からは古文だけでもちゃんと起きようと思う。
 寮に帰って、そのまま食堂に直行して夜食を食べた後、部屋に戻ると要ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。風呂に入って、要ちゃんとちょっとお喋りをしてベッドに潜り込んだけど頭を使ったからかすぐ眠れた。



         **



 最初はダルかった補習だけど、四日目になって図書室に向かうのが楽しみになってたりする。
古文が分かっていくのが楽しいのもあるけど、なにより東先生の色んな一面が発見出来る。今まであんまり話したこと無かったから知らないのは当然なんだけどね。
昨日知ったのは東先生が桐泉の卒業生だってのを教えてもらった。昼休みに図書室に行って、歴代の卒業アルバムを引っ張り出してみたけど本当に東先生がいた、学生の東先生はとても新鮮でした。

「…東先生って女子にモテモテっスよね〜」
「え、そんなことないと思うけど…どうしたの?いきなり。」

東先生が用意してくれたプリントをやりながら思ったことを言ってみた。
最近東先生を廊下とかで見かけると嬉しいんだけど、女子に大抵囲まれている。それを見ては毎回モテすぎだろ…と思うの繰り返し。でも時々、東先生がオレに気が付いて笑ってくれたり手を振ってくれたりする、それがかなり嬉しかったりする。

「……東先生の名前って確か由良っスよね?」
「うん、そうだけど…何?」
「…………………由良、先生って呼んでもいいっスか?」

本人の顔を直視しながら聞いたけど正直に言おう、結構恥ずかしい。しかも顔上げたらちょうど先生もプリントから顔を上げて目がバッチリ合った、なにこのタイミングよくないっ!

「……」
「……」

そしてこの沈黙である。
羞恥やら何やら色々混ざって先生の顔を直視出来なくなりました、もう無理限界よ!恥ずかしいっ…!
腕で顔を隠してるとプッと先生が吹き出した、恐る恐る顔を上げると先生が口元を隠しながら笑ってる、あ゛あ゛あ゛あ゛恥ずかしいっ!!

「いいよ、そう呼んでも。」
「……えっ!?い、いいの?!」
「うん、どうぞ。」

ふぉぉおおっ!
ヤバいっ超嬉しいっ!!きっとオレ今変な顔してる!絶対にやけてる!きめぇっ!でもそれほど嬉しいんだよ!!

「ゆっ!」
「うん。」
「ゆ、ゆっ…ゆ、ゆゆ…ゆ、らセンセ、ィ…」
「はい。」

いざ呼ぼうとすると滅茶苦茶恥ずかしくて噛みまくり、挙げ句の果てには語尾か消えていくという結末どうすればいい、どうしようもないっつの。
これは、慣れるの時間かかりそうだぜ。

「ははっ、伊庭君だけだよ?そういう風に呼ぶの。」
「っ!!他の奴らには呼ばせないで下さいねっ!絶対っスよ!」
「う、うん…?」

その日から補習最終日まで、変にドキドキして先生の顔を見れなかった。



         **



 一週間の補習が終わって、翌週からいつものメンバーで仲良く帰宅の楽しい日々が帰ってきたわけだけど補習以来先生と会話という会話をしていないわけで、ちょっと?いや、かなり寂しい。
学校の食堂へ向かいながら廊下を歩いていると後ろから肩を叩かれた。顔だけ向けるとそこに居たのは会いたいなーっと思っていた人で。

「こんにちは。」
「東先生!」

嬉しさに声を張り上げてしまったけど気にしない、泉水や竜・要ちゃんが不思議そうに振り返ってこっち見てるけど気にしない、気にしたら負けだと思ってるからオレ。
するとオレの口に人差し指を添えてニッコリと笑いながら

「東先生、じゃないよね?呼び方。」

そう言われて一気に自分の顔が赤くなるのが分かった、超…やべぇっ!
恥ずかしさのあまりちっちゃい声で「ゆ、由良先生…」と言い直すしたら満足そうに笑って、よく出来ました って言われながら頭撫でられた。

しばらくはあず…じゃなくて、由良先生を直視出来そうにない。








伊庭と先生。



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