病気に負けるなと君は言った。絶対私を置いて死なないでと君は言った。それでも僕は病弱な自分が君を置いて先にいくのだと思っていた。それなのに、何故今は、君がこんなにも傷だらけで、冷たいのだろうか。目を開けなよ、そして僕の名前を呼んでよ。戦後の雨の音が騒音を全て消し、さらに虚無感は増す。

ねえ、病気というのは気持ちの問題でもあるんだよ。こんなに崩れた今の僕じゃあ、それに勝てる気がしない。いっそのことこのまま死んでしまおうか。どうせ放っておいても死ぬのだから。

「半兵衛、これを」

秀吉のその声に振り向くと、差し出されたのは折り畳まれた一枚の紙。戦の前に必ず彼女から僕宛てに預かっていた遺書のようなものらしい。つまり彼女は毎回死を覚悟していたのだ。僕はその本当の遺書となった濡れた紙を千切れないようにそっと開いた。

拝啓、半兵衛殿。この文を読んでいる頃、私はもうこの世にいないのでしょう。今、あなたは何をお考えですか。死のう、なんて、考えてはいませんか。もし、そう考えていらっしゃるのなら、今すぐお止めになってください。私は半兵衛殿のために、秀吉殿のために、そして仲間のために常に命を賭けて戦って参りました。あなたもきっとそうでしょう。あなたはまだやるべきことがたくさん残っているのではないですか。あなたが全精力を使いきり、息絶えたその時に、またお会いしましょう。それまでは、どうか自ら命を捨てるなどということのないように。

読み終わった頃、涙が雨と混じって僕の顔はぐちゃぐちゃに崩れていた。君の言葉は、どうしてこうも重みがあるのだろう。どうしてこんなに人の心を動かすことができるのだろう。ああ、武将が泣くなど情けない。これからは君のように生きることを誓うよ。



滲む
(その文字は絶望からの出口だった)



080618