私はつい最近に暁に来た新人である。おそらく実践向きではないが故に雑用ばかりやらされて、未だにあまり外への任務に出かけたことはない。つまりほぼ毎日アジトに引きこもっているので早くもほとんどのメンバーと顔を合わせて少し話をするぐらいにはなれた。特にデイダラさんなんかが一番話しやすい。
 しかし少し苦手な人が1人いる。それは実年齢オヤジの見た目美少年(デイダラさん曰く)ことサソリさんである。一番の理由はおそらく、あの振る舞い。常に余裕をかました顔をしているし、若干怖い雰囲気を醸し出す時もあるのだ。そして加えて言うなればやはり綺麗すぎるのがいけないと思う。イケメンすぎる人と話すのは緊張して苦手という女子は少なからずいるであろうが、私は正にそれだ。なんかおろおろしてしまうというか、血圧が上がるというか。あれ、これが一番の理由なんじゃね。

「なんだよやっぱ好きなんじゃねえかよ、うん」
「ちっ、違いますってば!どうしてそっち方面に繋げたがるんですか思春期の女子ですかあなた」

 そんな反論を聞いている様子はなく、まあ旦那に惚れるのも仕方ねえよなあとデイダラさんは頷いた。もう勝手に言ってろ。

「とにかく苦手なんです、あの人」

 だから面白がって2人きりにしようとするのとかやめてくださいね、と言ってやった。言い忘れてたけど私が彼にこんな事情を説明しているのはそもそもこの人がそういうことをしたことが何回あったからなのだ。少年の心を忘れていないのもいいが少しは大人になれという思いで目の前の金髪を睨んでいると急に背筋に悪寒が走った。

「へえ、誰が苦手だって?」

 同時に、耳元で聞こえた低くて甘い声。噂をすれば、だ。後ろを振り向くのが非常に怖い。きっと今私の顔は真っ青だ。それなのにデイダラさんといえばおう旦那!なんて明るい声で軽い挨拶をして、あっ忘れてた俺任務行かねえとなんて嘘だか本当だかわからないことを口にして去っていった。おい今さっきやめろと言ったとこだろ。というかあの人の位置からなら私の後ろぐらい見えただろ言えよすぐに。舐めてんのか。
 と、とりあえず頭の中でデイダラさんへの愚痴を止めどなく呟く。もちろん恐怖を紛らわすためである。しかしそんなことで逃げられるわけもなく、背後に佇む美少年は恐ろしく綺麗な笑みでまた私に問いかけてくる。なあ誰が苦手だって?…そんなの答えられる訳がない。

「いや、あはは、まあまだ私慣れないもんで話せない人多いんですよーって話で」
「なるほど、慣れてない人と話すと血圧が上がるのか」
「…」
「それで、綺麗な男と話すのが緊張するんだよな」
「…」

 私の作り笑顔がさらに凍りついた。対象的に彼はにやりと笑う。なんだよこの人全部聞こえてんじゃねえか。なんてたちの悪い人なんだ。

「う、…言い返す言葉もありません、すみません」
「素直でいい」
「ではそういうことなんで失礼しま…」
「おい待てコラ」

 すごくドスの聞いた声で私の身体は考えなしにすぐさま彼の言う通りにぴたっと止まった。止まらないと殺されると瞬時に判断したのだろう、私の神経はそう馬鹿ではなかったらしい。

「誰が苦手だから喋らないとかな、お前それでも自立した大人か」
「え、っと…」
「ここは学校じゃあねえんだ、職場だ。そりゃ苦手な奴だって嫌みな上司だっているだろうが、いちいち逃げてちゃやってけねえだろ」
「お、仰る通りです…」

 うわ、S級犯罪者がすっごいまともなこと言ってる。私みたいに人間関係に悩む今の若者に聞かせてやりたい酔っ払いオヤジの説教だ。あっオヤジって言っちゃった。
 …ん?酔っ払い?確かに酒臭いなと思ったけどまさか。

「サソリさんまさか、アルコールとか、呑んできました?」
「ああ?まあちょっとだけな」
「でも結構匂いすごいですよ、大丈夫ですか」
「うっせえな、なんともねえよあれぐらい。それよりお前俺のこと好きなんだって?別に相手してやってもいいぜ」

 そう言ってにやにや笑って迫ってくるサソリさん。その顔は尚白いままであるがこの言動からして確実に酔っ払っている。しかもここまでくるともうただの変態オヤジだ。

「いやっあの、違いますから!別にお相手とか、そういうの望んでないのでまったく」
「嘘つけよ、そんなに顔真っ赤にして」
「うう、それは…」

 確かに顔がすごく熱い。心臓も活発すぎるくらいに動いていて、破裂しそうだ。だって男慣れしていない私がこんな美少年にこんな間近に迫られているのだから仕方がない。だから別に好きだからとかではない、断じて違う。
 くそう、ただの酔っ払いオヤジのくせにどうしてこんなに色気があるんだ。もうパニックになりそうなので私は必死に抵抗した。

「たっ、確かにどきどきしますけどそれは男慣れしてない私がこんな状況にあるからであって、決してその、…ああもうとにかく耐えられないんで離れてください!」

 両手で力一杯胸板を押し退ける。押し退けてから、後悔した。いくら自分が耐えられないからって、こんなおっかない人になんてことをしたんだろう。さらに今は酔っ払っているのだから怒りっぽくなっている可能性もある。なんて言われるだろうかいや殺されるのではないかとびくびくしていると意外にも穏やかな声が聞こえた。

「ほう、普通に話せるようになってきたじゃねえか。これで苦手は克服できたな」

 目をぱちぱちさせる私。それを見て面白いというように笑みを浮かべる彼。その言葉の意味が分からなくて呆然と彼を見つめていると胸ぐらを掴まれ顔がまたぐいっと近寄ってきて、今度はすました顔で言い放った。

「人形の俺が酒に酔っ払う訳ねえだろうが、馬鹿」

 高血圧で倒れてたらどうしてくれんだこの詐欺師。


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人形だから本当に酔っ払はないのかは知りません^^

企画「片恋ウイルス」へ提出