僕にはもう時間がない

そう言って、青白く貧弱な自分の腕に目を落とす。病気がひどくなってきた。秀吉の力になってやれるのもあとわずか。最近は何もしていないといつもそんなことを考えるようになったが、今日の吐血でさらに病気の悪化を思い知らされた。それでさっきの溜め息混じりの独り言が出た訳なのだが。


「そんなことおっしゃらないでください、半兵衛さま」


その弱気な独り言を一人の女に聞かれてしまった。いつからいたのか聞くと結構前からいたが話し掛けても僕は何も返事をしなかったらしい。


「独り言に口出しをしないでくれないか」

彼女と反対側を向いて言うと、しゅんとした小声で申し訳ございませんと聞こえた。そんなに、落ち込ませるつもりは、なかったのだけれど。



「本気で怒ってるわけじゃないんだよ、ただ、」
「?」

「好きな女性に自分の弱音を聞かれるというのは、やはり男としてはいたたまれないことだから」


くさい台詞を言いたかった訳ではない。日頃かまってやれないから、僕に嫌われたと思わせたくないんだ。ちらっと彼女の方を見ると、やはり真っ赤な顔でうつむいていて、思わず僕も笑みがこぼれる。



「では、その・・・好きな女性、からのお願いです」
「なんだい?」




「私が死ぬまで一緒にいてください」



約束ですよ、と言って目の前に出された細くて綺麗な小指を僕の小指で繋いだ。



指切り
(君のためならなんでもするさ)



080601