ついに日常を壊す時がきた。いつまでもこのままじゃ目的を忘れてしまうから。本当に殺ってしまうのか、別に今のままでもいいのではないか、と躊躇しながらも、彼女の頭部に銃口を向ける。気づかれるようにわざとカチッと音を鳴らして。

「骸・・・?」

思惑通りに振り向いた彼女は僕の顔を見て固まる。いきなりの出来事をまだ受け入れられないみたいだった。

「おや、気づかれてしまいましたか」

余裕の表情を崩さず言う。いや、気づかれるようにしたのは僕なのだけれど。それを気づかれては困る。だって彼女に最期まで僕を想って死なれるのは僕が辛くなるから。どうせなら僕を裏切り者として認識して、僕のことを最低だと思って死んでほしい。それともやっぱり気づく前に殺ってしまった方が良かったのだろうか。

「楽しかったですよ、さようなら」


あたかも感情がないかのようにそう言って、引金を引いた。銃の鳴る音は聞こえない。今僕の脳に届く情報は、あなたがゆっくり倒れていく綺麗な映像だけ。彼女はまだ、僕を見ている。最後まで、卑劣な男を演じなければ。彼女が床に倒れ、動かなくなった。綺麗なその顔は、死んでるとは思えなくて、今まで抑えてきた感情が喉元までこみあげてきた。




「愛していましたよ」




今さら後悔してもしかたない、けれどやっぱりもっとあなたといたかった。もっとあなたを愛したかった。死ぬ瞬間、彼女は僕を憎いと思ってくれただろうか。それともやっぱり優しいあなたは最期まで僕を愛したのだろうか。どちらにしても、こんなに汚れてしまった僕にもう彼女を想う資格などないのだということだけは確かにわかった。


080524