次の日の朝はいつも通りの時間に目が覚めた。眠れなかった割にはすっきりした朝だ。それから時間通りに家を出て予鈴が鳴る五分前には席に着いていたから担任には何も言われなかった。ただ友達には昨日見たよとにやにや笑いながら言われてしまった。それからお昼は昨日食べ損ねたパンを買って鳳くんと一緒に屋上で食べた。やっぱり昨日のことは夢じゃなかったんだ。本当に鳳くんと付き合うことになったんだ。嬉しくて一日中ふわふわした気分だった。 放課後はまた一緒に帰ることになったが、今日は特に用事もないというので家のすぐ近くの路地裏で話をした。まだぎこちない会話だったけどやっぱり楽しくて時間はすぐに過ぎて行った。そろそろ帰ろうかなと言って立ち上がると彼はそうだねと笑っていた。
「あ、やっぱりちょっと待って」
そう言って彼も立ち上がり、少し屈んで顔を近付ける。もう少しのところで私は顔を背けてしまった。
「ご、ごめん。嫌とかじゃなくてその、どうしても恥ずかしくて」 「いいよ、」
気にしないで、と彼は優しく笑った。なんだかすごくきゅんとして、今度こそ頑張ろうと心に決めた。
次の日、また同じ友達に昨日見たよと言われた。そして放課後の帰り道はあの路地裏で話をしていて、今日こそ頑張ろうと思っていたのにまた顔を背けてしまった。また鳳くんは気にしないでと笑ってくれたから、やっぱり胸がきゅんとした。
次の日も、また次の日も顔を背けてしまった。それでも鳳くんは気にしないでと笑って言ってくれるのだ。いい加減自分の意思に反して動く身体に苛苛した。いつになったら自分は前に進めるのだろうか。
次の日、また友達に昨日見たよと言われた。ここのところ毎日である。そんなに毎日からかわなくたっていいじゃないと言ったらきょとんとした顔をしていた。もしかしたらからかうつもりなどなかったのかもしれない。確かににやにやと笑っていたように思うのだけれど、それも私の勝手な判断だったのだろう。
「そろそろ帰ろうかな」 「そうだね。…あ、やっぱりちょっと待って」
彼が立ち上がって近づいてくる。今度こそ、私は逃げてはいけない。鳳くんの顔を見ると恥ずかしくてまた拒否してしまうから、目を閉じてみることにした。だけど鳳くんの顔ががすぐ目の前にいるんだと思うと恥ずかしくなってまた顔を背けてしまった。ゆっくり顔を上げると彼の唇は優しく穏やかに弧を描いているのだけれど何故か背筋がぞくっとした。その口から発せられた言葉はいつもの鳳くんのものではなかった。
「早くキスしてくれないと、いつまで経っても明日はこないよ」
そう言って、ただ呆然と立ちつくしている私にキスをした。やっとできたねと頬を赤く染めて笑う顔はいつもの鳳くんだった。
次の日の朝、友達には何も言われなかった。
090815
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