今日は私の今までの人生で最も大切な日、すなわち私がずっと想いを寄せている人にその想いを伝える日である。二人で日直なんて奇跡はめったにない。つまり今日しかチャンスはないのだ。
私はその大事な日に三十分も寝過ごしてしまって危うく遅刻しそうになった。担任がぎりぎりセーフだなあと笑っていた。友達には珍しいねと言われた。お昼は食べたかったパンが売り切れていたので仕方なく評判の悪い食堂のラーメンを食べたし、その後の授業では少しうとうとしている時に問題を当てられてしまった。今日は悉くついていない。
それでもそう不幸は続かないらしく、放課後はやはり鳳くんと私だけが残った。少し会話はあったが、なかなか切り出せないうちに日直の仕事が終わり、彼はじゃあねと言って教室を出ていった。廊下を歩いていく彼の後ろ姿を追い掛けようと思うのに足が動かない。喉も震えるだけだった。結局何も言えなくて後悔しながら眠りについた。やっぱり今日はついていない。

次の朝はまた三十分寝坊した。急いで行くと間一髪で間に合って、担任はぎりぎりセーフだなあと笑い、友達は珍しいねと言った。お昼はまた仕方なくラーメンを食べたし、その後の授業でうとうとしていると名前を呼ばれた。
放課後もまた二人が日直で、昨日と同じ会話をした。そして気付かないうちに仕事は終わり、また後ろ姿を黙って見送った。見ると黒板の日付が変わっていない。昨日だと思っていた一日は予知夢か何かだったのだろうか。

すると次の日もまた昨日と同じことの繰り返しである。私は三回も「今日」を繰り返しているのだろうか。さすがに今日起こることに予測はついたが、不可抗力の出来事は全く変わりはしなかった。しかし放課後は違った。自分が勇気を出せば行動が起こせるのだから今日は昨日の「今日」とは違う「今日」になるということに気付いたのだ。

「ま、待って」

精一杯勇気を出して叫ぶと彼はドアの前で足を止めた。もう少し、勇気を出さなければ、また昨日と同じことの繰り返しになる。

「私、鳳くんのこと、好き。いつからっていわれるとわからないんだけど、とにかくすごく好き」

勢いに任せて言った後で一気に恥ずかしくなり下を向いた。きっと顔が真っ赤になっているに違いない。彼はどんな顔をしているのだろう。顔を上げられずにいると彼は静かに言葉を発した。

「俺も、好き。ずっと言おうと思ってたんだけど、なかなか言い出せなくて」

驚いて顔を上げると彼は少し頬を赤らめて目を伏せていた。訳が分からなくて、ただ彼の顔を見ていることしかできない。それから暫くして帰ろうと差し出された手を握っても、まだ訳が分からなかった。夜は心臓がうるさくてろくに眠れなかった。明日はどんな顔をして話せばいいのだろう。