自転車の鍵がなくなった。いや鍵がしっかり閉められた自転車は家にあるから多分鍵も家にあるはずなんやけどどこ探してもない。仕方ないから今日の朝練は休ませてもらって、歩きで行こう。事情話せばわかってもらえるやろ。
授業には間に合う時間に家を出たつもりだったけど、なんとなく不安で途中まで軽く走っていたら、生徒がちらほら見えてきたので安心してペースを落とす。少し前の方にうちのマネージャーが携帯をいじりながらのろのろ歩いていた。そのまま大人しく見過ごすのも面白くないので、肩に掛けていた鞄をわざとぶつけて早足で通りすぎてやった。少しよろめいている。
「すんませ…って財前かよ」 「すんませーん」 「絶対わざとやんなんやねんお前」 「先輩歩くの遅いんすもん」 「だからってぶつかるのおかしいやろ、車にひかれたらどーすんねん」 「あー、先輩ならトラックきても大丈夫そう」 「いやいや無理やろふざけんな。ピアス引っ張ったろか」 「うわ先輩、後輩いじめ…」 「いじめられてんの先輩の方やねんけど」
ほんま生意気やな。溜め息混じりに言って先輩は携帯に目を戻す。うわめっちゃしょーもないゲームやってる。残念ながら俺もそれ結構やってる。あ、死んだ。 飽きたのか携帯はポケットにしまってこっちを見る。
「そーいえばなんでこんな時間なん?」 「まあいろいろありまして」 「説明めんどくさい訳か」 「よくわかりましたね」 「まあ財前ってそんなやつやしなあ…」 「ちょっと先輩ひどいっす、先輩のが絶対性格悪いっすよ」 「ちょっと財前くんひどいっす…」
学校に着くと朝のミーティングが終わったらしい白石部長がいた。あ!と先輩はそれに気づき部長に寄っていく。朝っぱらからいちゃこくなや。目でそう悪態をついてみるが二人とも気づいていないらしい。
「そーやくら、財前が朝練さぼってんで」 「さぼりちゃいますわ。ちゃんと正当な理由あるんです。そんで白石さん、そのことなんすけど、」
俺と先輩はダウンロードするゲームの趣味も一緒で、先輩は俺のこともよくわかっていて、ぎゃあぎゃあとうるさい会話をしているのに、俺は先輩の彼氏じゃない。 白石部長は先輩がするようなあほらしいゲームはしないし、先輩は部長に「お前ってそんなやつやし」なんて言わないし、二人の会話も全然騒がしくないのに、白石部長は先輩の彼氏だ。
それをちょっと理不尽やと思ってまう俺ってやっぱりおかしいんかな。別に先輩のことなんか好きじゃないんやけどなあ。
090524
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