「あおーげばーとおーとしー」
「……」
「わがーしのーお」
「なんやねん一体」
「卒業式に向けての練習です。ああ、勝手に歌っとくんで気にせずどうぞ続けてください」
「気にするわ!」
「え?謙也くんたら私のこと…」
「追い出すぞ」
「すんません黙ります」

もうすぐ卒業だというのに生徒たちはこの歌のようにしんみりしている暇はありません。何せお受験真っ最中ですから、私みたいに呑気に歌っていられるわけなんかないのです。わかっています。でもこんなピリピリせかせかした最後はいやです。あっさりしたお別れなんて絶対いやです。

「なー、謙也」
「なに」

さっきは怒っていたのに、彼はぶっきらぼうではありますが答えてくれました。少し突っ込みがきつい時もあるけど本当は優しいのです。彼とは生まれる前から並んで歩いていたようなものなので蔵之介くんよりもよく知っています。物心ついた時からこんな感じでした。今流行りのツンデレなんていう言葉が彼にぴったりだと思います。そんなことを考えているとだからなんやねん!と言われてしまいました。
キレ症という言葉も彼にぴったりだと思います。

「明日、式終わったら、すぐ帰る?」
「そのつもりやけど、なんで?」
「え、いや、最後やしみんなでぱーっと、…とか思ったり思わんかったり」
「あー、でもほとんどまだ受験やからなあ、終わってからまた集まろや。その方がみんな都合いーやろ」
「…ああ、うん、そーやんな」
「よし、じゃあそれに向けて頑張ろ!」

そう言って謙也くんがまた参考書に目を向けたので私も隣に座って参考書を開きました。仕方ない、仕方ない、その言葉が頭の中でぐるぐるぐるぐる走り回るので参考書の内容など全く頭に入りませんでした。

卒業式は無事に終わりました。みんなで写真を撮った後、私と余裕をぶっかましている蔵之介くんの二人を残して謙也くんたちはすぐにいなくなりました。残された二人で思い出を語って笑い合おうとしましたが、やはり笑ってなんかいられませんでした。謙也、けんや、ケンヤ。頭の中の私がこもった声で叫びます。ずっと一緒にいたいよ。今までみたいに笑い合って、馬鹿やって、喧嘩して。だけどもうさようなら。またみんなで集まろうっていってたけど、さようなら。泣いてしまった私の横に蔵之介くんは座って何も言わず背中をぽんぽんと叩いてくれました。
だけど私が泣きやむ頃私は蔵之介くんからとても優しくなだめるような説教を受けていました。気持ちは分かるけどな、これはしゃーないことやん。いつまでも高校生じゃいられへんやん。みんな卒業して大人になってさ、そりゃ変わってしまうやろうし忙しくて会われへんかもしらんけど、俺たちはどーせここら辺の大学いくんやし、会おうと思えばいつでも会えるやんか。
違う、そうじゃないんだよ蔵之介。卒業するのが悲しいわけじゃない。私もう皆に会えないかもしれないんだよ、今日で最期かもしれないんだよ、蔵之介も千歳も石田くんも、謙也も、みんなみんな。私は皆の前から消える。皆が私の前から消える。きっともうそういう運命なんだ。
そんなことを考えてるとまたぼろぼろと涙が出てきたのです。拉致があかないので蔵之介くんにはありがとうもう大丈夫やから帰ろ、と精一杯の笑顔で言いました。蔵之介くんはまだ心配そうな顔だけどちゃんと笑い返してくれました。