何もない暗闇に女の子が一人います。蹲ってすすり泣いています。きっと誰の前でも泣けないのでしょう。どうしようもないのはわかっていましたが、僕はそっと彼女に手を差しのべてみました。しかし届いているはずの僕の手は彼女に触れることはありません。手には空気も何も触れていませんでした。

と、いうのは全て僕の見た夢ですが、泣いていた女の子は同じクラスのよく知る人です。勉強も運動も良くできて、いつも笑っていて活発で、みんなから好かれている。そんな彼女が蹲って泣いているなんてことは僕のいる現実では有り得ないことでした。

「面白いな、その話。生き霊とかなんじゃないか」
「俺どうすればいいのかな…」
「何もしないのが1番だろ。俺としてはもう少し探りを入れたいところだが、」

変に深入りして何かに障ったとしたら、祟られるのはお前だしな。そう言って再び本に目を戻す日吉はこういうオカルトな話が好きですが、僕は面白いとかではなくて真剣に悩んでいるんです。日吉もその辺は分かっているようでした。

「なんの話してんの?」

当人の彼女がいきなり話しかけてきたので僕はあからさまにびくっと音をたてて驚いてしまいました。慌てて昨日みた夢の話だよ、日吉の好きそうなのがいっぱい出てきたんだ、と誤魔化すと日吉に汚染されすぎだよととても眩しい笑顔で突っ込まれました。やっぱり彼女が泣いてるなんて考えられません。あれはただの夢であってこの彼女が現実なんだ。

そう思った数日後の事でした。

ねえあの子、引っ越したっていう話だけど。行方不明なんだよね、家族揃って。夜逃げ?家族そろって自殺っていう話もあるよ。どうなんだろうね。

昨日まで元気に来ていた彼女は、今日いきなり引っ越したと先生は言うのです。明らかにおかしいことはあの夢を見た僕でなくてもわかりました。どこに引っ越したのかと聞いてみても先生は聞いていない、の一点張り。僕は1人あの夢が気になって仕方がありませんでした。

その日の夜、僕はまた暗闇で蹲って泣いてる女の子の夢を見ました。彼女は誰にも打ち明けることのできない悩みを抱えていたんだとやっと確信しました。僕は放っては置けなくてまた手を伸ばしてみましたが、やはりどれだけ伸ばしても彼女に触れることはなく、掴めるのはただの無だけでした。


090116

長太郎の一人称が僕なのは文章の形式上の都合です。という言い訳(笑)