彼女はいつだっていい人だった。でも彼女はいつも俺を不快にさせた。あの目に俺は気づいていた。端から見れば暖かい優しい笑顔でも、何かが違うと思う。目が笑っていない。気持ち悪い。

そんな俺の心が見透かされたのか、彼女は俺に関わるまいというほど避けてくる。丸井先輩といるときによく話しかけてくるのだけど、もう何度も顔を合わせているのに丸井先輩とだけ喋って俺には話しかけてこない。目も合わそうとしない。むかつく。

「あ、丸井くん」

「あれ、まだ帰ってなかったのか」

「傘、忘れちゃって」

「ばっかじゃん」

「あはは、だよね。じゃあ部活、頑張ってね」

「おー」

丸井先輩がひらひらと手を振る先を俺は気だるそうにじっと見る。そしたら一瞬だけ目が合って彼女は焦って目を反らした。あれっ何かちょっとかわいいとか思っちゃった。むかつく。

「あの人、よく先輩に話しかけてきますよね」

「んーまあなー」

「丸井先輩のこと好きなんじゃないっすか」

そう言ったら予想とは違い、目をまんまるくしてじっと俺を見る先輩。ないない、と否定しながらも喜んでる様を想像してたのに。そして少しの沈黙の後、今度はにんまりと気持ちの悪い笑みを浮かべた。

「何だよ赤也、あいつのこと気になんの?」

「やめてくださいよ、俺あの人苦手なんす」

「えっなんで」

俺の言葉に先輩は再び目を丸くした。いい奴じゃね?顔も結構かわいいじゃん。そんなこと言われても。俺、裏表ある女は気に入らないし。とりあえず喋ってみろよと言われたが向こうが避けているのにどうしろと。こっちが話しかけたら俺があの人のこと好きみたいじゃん。というかなんでこんな展開になったんだ。

そんなことがあったあと、一人でいるときにたまたま通りかかった例の彼女と目が合った。またあの時と同じように避けられる。なんで避けんのかな、と思ってわざとまだじっと見てたらまた合った。焦ってる。面白いくらいに焦ってる。

「なんで目反らすんすか」

あ、話しかけちゃった。でもなんか、なんかまた可愛いと思ってしまった。もっと焦った姿が見たくなったんだ。
前まで嫌ってたのは自分を避けられてたのが悔しかっただけなのかもしれない。

「俺のこと避けてんすか」

「ち、違う!そんなつもりじゃ、」

「じゃあ、今度会った時は目反らさないでくださいね」

「え、うん」

「ちゃんと話もしてくださいね」

「うん、うん」

なんとなく喜んでるように見えるのは俺の思い込みかな。どうしよう、すげえかわいい。


081125