「まさかあんたが高杉の手のもんだったとはねえ」

驚きやした、と男は私の腕を強く握りながら笑った。やっぱり、私ではこいつに敵わない。なんで私にこんな役任せたんだよ高杉のくそ野郎。そもそも私に諜報なんて仕事自体向いてないんだよ人には向き不向きってのがあるでしょーが。

「あんたみたいなの、こうゆうの向いてやせんぜ」

いやだから今そのことについて考えてたんだってば。あーいらいらする。でもこいつには勝てないしそうなると捕まるからこれはもしや自害か土下座かしかないかな。でも自害とか怖いし、土下座もしても無駄じゃね。その前にそんなのプライドが許さないというか。

「土下座して許してください総悟様っつったら許してあげまさァ」

「ふざけんな」

「じゃあ総悟様愛してる」

「っ、ふざけんな」

「ふざけんなしか言えねーんですかィ?」

「言えますよ、ふざけるな」

「一緒でさァ」

いやだって本当ふざけてるとしか言いようがないし。しかも総悟様あ、あ、あい…だなんて誰が言うかっての。

「ちなみに俺はあんたのこと愛してますぜ」

「嘘つけこの女たらし」

「意地っ張りなとことか」

「うるさい」

「弱いくせに頑張るとことか」

「黙れ」

「俺がさぼってんの誤魔化してくれるとことか」

「黙れって」

「俺がいらなくなったアイマスクずっと持ってるとことか」

「っ、いい加減に…「嘘が下手なとことか全部」

「!」

「スパイだってことも俺を好きなことも隠しきれてやせんでしたぜ」

こんなことを言うから、私の仕事は上手くいかないんだ。むかつく。
私がこの男を殺せないのは、こいつが強いからじゃなくて、私が弱いからじゃなくて、私が情に流されやすいわけでもなくて。こいつがこんな奴だから、私がこんな奴だから。だからって騙されちゃいけない、こういう嘘言って女をいっぱい騙してきたに違いないよこの男は。最高に嘘が上手い最低な嘘吐き野郎だ。

「こんな奴に洗脳されて捕まりました逃がしてもらいましたじゃあ、高杉に怒られるんだよね」

そういって結局は自害を選ぶ私は最高に嘘が下手で意地っ張りな嘘吐き女でした。


嘘吐き

081019

企画:臆病者の口許