「コラコラコラ何やってんの」

「旅に出るの」

「旅っておい、旅立ってから2・3秒で終わっちゃうぞ」

「何言ってんの先生、コンクリートにぶつかってから旅が始まるんだよ」

「恐ろしいこと言うね」

「だってどうなるか気にならない?」

「なるけどまたいつかでいーじゃん」

「それまでやることがないよ暇だよ」

「じゃあ先生が一緒に暇潰ししてやるから、な?」

そう言ったくせに。先生がそう言ったから、私はまだ生きてようかなと思ったのに。

先生の通夜では、みんな泣いていた。泣いていない人は、ずっとうつ向いて悲しそうな顔をしていた。どうしてそんな顔をするの、もしかしてみんな、本当に先生が死んじゃったと思ってる?あの人がトラックなんかで死ぬものか、隕石でもくらわないと死なないよ。ああ、これもしかして夢なんじゃない?

ずっとそう思っていたかった。それならこんなに孤独を感じることはなかったのに。ねえ先生、私ずっと一人で大丈夫だったのに、先生と一緒にいるようになってから弱くなったよ。こんな気持ちになるの、初めてだよ。

もうだめ。耐えられない。私はこういった感情が嫌いだ。こんな弱い自分は嫌い。そうだ、旅に出よう、あの時出損ねた旅に。そうすればこの感情から逃れられ、る、かな。いや、逃げられないとわかっていてもそうするしかないの。私はもうこの世界にいられない、いる意味など、ないのだから。


正しい逃亡


080911

企画:愛と平和を唄っていた