最近同じものばかりを食べているような気がする。いや、うん、これが気のせいだったらいいんだけど。


「………」
「名前さん、手が止まっているけど、もしかして口に合わなかったか」
「ううん、おいしい。兵助くんの料理はいつもおいしいんだけど、兵助くん、豆腐、好きだよね…」
「ああ、好きだ」


 姿勢を正して黙々と麻婆豆腐を口に運んでいる兵助くんを見ているだけで、わたしは満足だ。わたしが大学の授業で帰りが遅くなるときは、兵助くんが代わりにご飯を作って待っていてくれる。バイトがある日もだから、休日以外はほぼ毎日か。それはとってもとってもとってもありがたい。兵助くんは何かと器用だから、兵助くんが作るご飯は文句なしでおいしい。帰ってきたらおいしいご飯もお風呂も準備してある状況が幸せ過ぎる。兵助くんは頭も大変よろしいので、わたしのバイト代と、兵助くんの新聞配達のバイト代で2人分の 生活をどうにかやりくりしてくれている。年下とは思えないくらいしっかりしている兵助くんにわたしは頭が上がらない。だからあんまりわがままは言いたくないんだけど、うん、さすがに豆腐は飽きたなあ。


「ねぇ、兵助くんって豆腐以外に好きなものってないの?」
「特には、あ、名前さんが作ってくれる料理は全部好きだよ」
「そういうのいらないから、まったくもう」


 真顔で誉めてくる兵助くんに若干照れつつ、自分のお皿に盛られている麻婆豆腐を口に運ぶ。今日も兵助くんの料理はおいしい。豆腐以外に好きなものがないのなら、それをやめてっていうのもちょっとあれだよね。でも14歳っていったら食べ盛りの成長期なわけだし、豆腐ばっかり食べてたら栄養が偏っちゃって兵衛助くんの成長に影響が出るかもしれないし。わたしが料理するときにまで豆腐を持ち出すようになったら何か対策を考えよう。そもそも、一緒に買い物に行ったときに、「豆腐買ってほしいのだ」っていう兵助くんのお願いに打ち勝てるようにならないとどうにもならない気がする。だって、兵助くんのあの長いまつ毛に縁取られた目で見つめられると駄目って言えないんだもん。イケメンってずるい。
 ちらり、と兵助くんを見てみたら、やっぱりまつ毛が長くて、ほっぺたに影ができていた。毎日マスカラで頑張っているのがあほらしく思えてきた。豆腐に恨みはないけど、なんだか意味もなく恨めしい。その恨みを晴らすように麻婆豆腐の豆腐に箸を突き刺してみる。豆腐って美肌効果とかあるのかな。


「…名前さん、何やってるのだ」
「あ、いや、特に意味はないよ」
「やっぱり、口に合わなかったんじゃ、」
「ない!ないよ!すごくおいしい!わたし、兵助くんの料理だいすき!」
「そ、そうか。ありがとう…」


 少し照れくさそうに頬ほっぺたを赤く染めてはにかんだ兵助くんにきゅんとする。年下のイケメン万歳。かわいい。わたしがにやにやと笑っていたら、兵助くんはおずおずとどこからかチラシを取りだし、わたしのほうに差し出してきた。わたしは首を傾げてつつも、チラシを受け取る。なんとそこには、手作り豆腐キット、という文字が。おうちで簡単にできたてのお豆腐が食べられる!とも書いてある。わたしは思わず目を見開いた。こんなマニアックな手作りキットがあるなんて。 てかなに、これうちのポストに入ってたの?あ、兵助くんのバイト先でもらったのかもしれない。兵助くん、豆腐好きで有名らしいから。
 やけにキラキラとした目でわたしを見てくる兵助くんに、わたしはチラシを破り捨てたくなった。私達何も言わないでいると、普段は冷静な兵助くんが拳を握りしめて、身を乗り出してきた。


「名前さんにできたてのおいしい豆腐を食べてもらいたいのだ!」


 わたし、このままだと豆腐嫌いになりそう。










120412









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