「ななななんて格好してるんですかあああ!」


 作兵衛くんが買い出しから帰ってきて、荷物を受け取ろうと思ってお出迎えしたら、何故か怒鳴られた。何度も言うけど、ここ、ひとり暮らし用のアパートだからあんまり騒がれると年下の男の子連れ込んでるって噂になっちゃう…!青ざめながら作兵衛くんを部屋の中に引き込んで、がちゃん、と鍵をかけた。作兵衛くんはわたしから視線をそらしつつ、「すいません」と小さく謝った。ううん、可愛いから許す。


「まあ、もし追い出されても、作兵衛くんと一緒だからいいか」
「なっ、名前さん、!」
「はい、叫ばない。買い出しありがとね、作兵衛くん」


 また大きな声を出そうとした作兵衛くんの唇に指を当てると、真っ赤な顔してぱくぱくと口を開いて閉じて、結局何も言わずに項垂れた。正直、作兵衛くんを照れさせるのが楽しくなってきている今日この頃。こうも素直に反応されると、ついついいじめたくなってしまう。にやにやと緩むほっぺたを隠し、作兵衛くんが持っていた買い物袋を手に取る。と、作兵衛くんがそれを掴み直して、わたしの背中を部屋に向かって押し始めた。いつになく必死だ。


「え、え、なにどうしたの?」
「これはおれがやっとくんで、名前さんはその服をどうにかしてください!」
「え、服?なんで?これ、だめ?」
「み、短すぎるんですよ!いろいろ!」


 ちらりと振り返ってみれば、作兵衛くんの耳が赤くなっているのが見えて、ええー、って思ってしまった。わたしが今着ているのは長袖のTシャツに短いルームウェア。完全なる部屋着スタイルである。日差しが入ってくると、まだ夏ではないとはいえ、この部屋の気温は初夏並みに上がるから、このくらいがちょうどいいんだけど。作兵衛くん、思春期か。そうか。こんな貧相な体でも恥ずかしいものは恥ずかしいのか。可愛いなあ、と思うのと同時に、いじめてやりたいと思ってしまうあたり、わたしの性格は少し歪んでいるらしい。あれだよ、好きな子ほどいじめたくなるってやつ。
 わたしはくるりと振りかえって、目を見開く作兵衛くんににっこりと笑ってみせる。かあ、とまた一段と顔を赤くした作兵衛くんの顔を覗き込む。あらあら、照れちゃって。


「今日、暑いんだもん。それに、この格好で出掛けるわけじゃないんだから、べつにいいでしょ?」
「だっ、だめです!お、おれが、困るっていうか…」
「ふぅん、どうして?」
「も、もし突然誰か来て、ドアを開けてみたら相手は男で、そんな格好をした名前さんを見て連れ去ろうとしたりなんかしたら、おれまだ子どもだし、力もなくて弱いから、助けられないかもしれないし…」
「いやいやちょっと待って作兵衛くん、それは考えすぎだよ」
「考えすぎじゃありません!名前さんは、か、かわいい、です、から…」


 だんだん声が小さくなっていくのに比例して、視線もどんどんと下がっていく作兵衛くん。ちなみにわたしは予想外の反応を見せた作兵衛くんの可愛さに打ち抜かれていた。それはもう、どきゅん、と。赤くなった顔を見られないように、わたしは作兵衛くんの赤い綺麗な髪を撫でまわした。12歳の子に可愛いって言われて本気で照れてるわたしって…!慌ててわたしの名前を呼ぶ作兵衛くんが顔を上げる前に部屋に逃げ込んで扉を閉めた。すりガラスの向こうで、作兵衛くんが自分の髪に触れながら首を傾げている。


「さ、作兵衛くんがそんなに言うなら、着替える、ね」
「あ、は、はい、お願いします」
「うん。あ、でもやっぱり暑いから、」
「着替えてください!」
「あ、う、違くて、コンビニにアイス買いに行こうよ、作兵衛くん」
「今買い出しから帰って来たばっかりなのに…」
「で、でも、ほら、作兵衛くんもアイス食べたくない?ね、行こうよ」
「…名前さんがちゃんと着替えたら、ですよ」
「心配し過ぎだって、もう」


 ふふ、と思わず笑みがこぼれたわたしは、作兵衛くんが冷蔵庫を開ける音を合図に、それなりの格好に着替え始めた。しかし、この時期って何を着ればちょうどいいのかわからない。目についたワンピースを着て、作兵衛くんがいる廊下に顔を出してみれば、まだ赤い顔で「短い!」って言われてしまった。
 …なんか、作兵衛くん、お父さんみたい。










120518

なんかいろいろ間違った気がする…






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -