「いつもごめんね、名前」


 申し訳なさそうに謝る善法寺先輩の腕に白い包帯をくるくると巻いて、適当なところで結ぶ。今日は結構深めの穴にはまっていたから、傷が深かったのだ。「はい、おしまいです」と微笑むと、善法寺先輩も「ありがとう」と笑ってくれた。
 保健委員長である善法寺伊作先輩は、他の誰よりも抜きん出て不運だ。今日も今日とて、喜八郎の落とし穴に落ちていた善法寺先輩を見つけ、こうして医務室で手当てをしている。ついでに散らばっていたトイレットペーパーも回収してきたから、後で私が補充してこよう。善法寺先輩は医務室待機ということで。


「私、トイレットペーパーの補充に行ってきますね」
「名前は今日当番じゃないでしょ?」
「暇なところを滝夜叉丸や三木ヱ門に見つかるとめんどくさいので、むしろ仕事させてください」
「ああ、ひどい点数をとったんだっけ?」
「…なんで善法寺先輩がそれを知っているんですか」
「田村がぼやいてたのを文次郎が聞いて、それが六年を回り回っていたよ」
「つまり、六年生の先輩方はみんな知っているんですね…」


 生き恥だ、と私がうなだれていると、「いけいけどんどーん!」という声と数人の足音が聞こえてきて、医務室の戸が勢いよく開かれた。そこにはいけどん七松小平太先輩を始め、六年生の先輩方が勢揃いしていた。七松先輩がバレーボールを持っているから、バレーをしていたのだろう。全員ぼろぼろだ。七松先輩の遊びの後は、いつもこうして医務室にやってくる。すると、七松先輩の目が私を真っ直ぐとらえて、嬉しそうに顔が綻んだ。


「名前じゃないか!」
「こんにちは、七松先輩」
「名前、バレーしよう!」
「今からトイペ補充に行かなきゃいけないので、すみません」
「なんだ、そうなのか」


 しゅん、と落ち込んだ七松先輩に、善法寺先輩が苦笑した。七松先輩に誘われたバレーやマラソンに付き合うたび、ぼろぼろになって帰ってきては善法寺先輩にお世話になっているからだろう。たまに参加する分には楽しいけど、あれにいつも付き合わされている滝夜叉丸たちは大変だなあ。体育委員会の活動の半分は、七松先輩の趣味や遊びに捧げられていると思う。


「小平太、あんまりうちの名前を振り回さないでよ」
「名前と一緒に遊ぶと楽しいから、たまには貸してくれ!」
「こら小平太、名前を物みたいに扱うんじゃない」
「名前は座学の成績が悪いらしいからな。お前に付き合ってる場合じゃないだろ」
「プロの忍者になるには知識も重要だ!俺がギンギンに勉強を教えてやろう!」
「………図書室で本を読むといい」


 …とりあえず、潮江先輩のギンギンはお断りさせていただきたい。中在家先輩を悲しませるのも嫌だが、本を読むのも嫌だ。そして、本当に彼らが私の試験結果を知っていることに、私は一人打ち拉がれた。こんな羞恥は他にない。立花先輩が私を見て、にやりと笑っている。怖い。何もかも三木ヱ門がうっかり口にしたせいだ。でも、それを三木ヱ門に問い詰めたとしても「お前自身のせいだろ」と言われるのが目に見えているから、後でタカ丸さんに慰めてもらおうかなぁ。あ、善法寺先輩の行動域には浅くて安全な落とし穴を掘るように、喜八郎にお願いしなくちゃ。

 さて、食満先輩と潮江先輩が喧嘩を始めないうちに退散することにしよう。






120219

登場人物が増えると話も長くなるみたい。台詞が増えるからか。そして会話から始まるの多い。ワンパターン。
六年生の書き分けが難しいです。読みづらくてすみません。
次は五年か三年がいいかなー。