「名前せんぱぁい!」


 背後からばたばたと駆け寄ってきた可愛い後輩たちに、自然と顔がゆるむ。勢いよく私の腰あたりに抱き付いてきたきりに倣い、乱太郎としんべヱも重なり合うように抱き付いてきた。彼らの頭を順番に撫でると嬉しそうに表情がほころぶ。きゃっきゃっと笑う後輩たちが可愛くて仕方ない。すると、「あ、」ときりが突然声をあげたので、私は首を傾げた。


「どうしたの」
「名前先輩、土井先生の家に帰らないって本当っすか!?」
「ああ、うん。そのつもりだよ」
「なんでですかやだやだやだー!」


 さっきまでの笑顔が嘘のように、きりが寂しそうな悲しそうな顔になり、珍しく縋りついてきた。…土井先生、私がきりに弱いことを知っているだろうに。土井先生のことだから、確信犯なのだろうけど。まったく、土井先生も意地が悪い。私の袖をきゅっと掴む小さな手に、私の心が揺れないわけがない。しかも、なぜか乱太郎もしんべヱも至極残念そうな顔をしている。
 きりが、名前先輩がいるといないじゃ稼ぎが全然違う!とか、町のおばさんたちも名前先輩が帰ってくるの楽しみにしてるのに!とか、いろいろ文句を言ってくるのを聞き流しつつ、私は二人に視線を移した。


「きりの言い分はわかった。で、乱太郎としんべヱまでそんな顔をして、どうしたの」
「私たち、きりちゃんのアルバイトのお手伝いをするので、ちょっとの間、土井先生のおうちにお世話になるんです」
「だから名前先輩にも会えると思ってたのにー」
「名前先輩やっぱり俺と一緒に帰りましょうよ!そんで俺のバイト手伝って!」
「きりちゃん、名前先輩にだって大切な用事があるんだろうから、諦めようよ」
「名前先輩、何か用事があるんですかー?」


 無邪気に問い掛けてくるしんべヱに、私は曖昧に笑う。乱太郎がきりを止めてくれたから、助かったと思ったんだけどなぁ。きりは相変わらずふてくされたような顔をしている。
 「少し、ね」と誤魔化すように言うと、きりがキッと睨み付けてきた。嘘吐き、とでも言いたげな顔だ。きり、お前は最近なぜそうも反抗的なんだ。お前の兄貴分として、少し悲しいよ。


「ほんっとに、帰らないんすか」
「本当に、帰らないよ」
「………」
「きり、拗ねないでくれよ」
「拗ねてない!」
「一緒に帰れなくてごめんね」
「…じゃあ、今日名前先輩の部屋に泊めてください」
「え、きりちゃんだけずるい!名前先輩、私もいいですか?!」
「僕もー!」


 期待のこもった三人の目が私を真っ直ぐに見つめてくる。断れる雰囲気は、ない。「よ、四人で寝るのは、さすがに狭いんじゃないかな」と、遠回しに遠慮してみても彼らに通じるわけもなく、「くっついて寝れば大丈夫ですよ!」「僕たち、自分のお布団持っていきますし!」「それに名前先輩の部屋、もともと二人部屋だから、四人くらい余裕っすよ!」と追い討ちをかけられた。今夜は任務がない。だから、決して聞けないお願いではないのだ。
 私は仕方なく諦めて、ゆっくりと頷く。「今日だけだよ」私が言うよりも早く「やったー!」と声をそろえて飛び跳ねる三人に、やっぱり口元が緩んでしまうのだった。
 今夜は騒がしくなりそうだ。






120217

ここでいう長期休暇は夏休みとかそういう感じで、はい、お願いします。季節感は無視ですすみません。