「……三木ヱ門」
「どうした、名前」
「私、そろそろやばいかもしれない」
「わかってたことだろ」
「三木が冷たい」


 返ってきた答案用紙をぐしゃぐしゃと丸めて、私はため息を吐いた。座学なんてできなくたって構わないとかそういう場合ではない気がする。土井先生が胃を痛めるくらいの点数を叩きだしてしまったわけで、座学が苦手だと自他共に認める私でも、こんなひどい点数は四年間で初めてだ。これは、土井先生に見せられないなぁ。
 隣で火器の本を読んでいる三木ヱ門の答案用紙を盗み見ると、案の定ほぼ満点で、私はなおさらうなだれた。


「滝夜叉丸に知られたら勉強させられる…」
「自業自得だな」
「補習もあるって…」
「いい機会じゃないか」
「三木が冷たい」


 机に顔の片側をくっ付け、三木ヱ門の横顔を見上げる。学園のアイドルというだけあって、綺麗な顔をしている。うらやましい。ユリコを見てるときはあんな優しい顔をするのに、どうしてか私には冷たい。下級生の頃はいつも私のあとをついてきて、「名前!」って笑ってくれて、本当に可愛くて仕方なかったのになぁ。思春期ってやつかなぁ。なんて母親のようなことを思った。
 三木のわき腹に拳を軽くぶつけてみる。音もなく触れた忍装束からは少しだけ火薬の匂いがした。今日もユリコと遊んできたのか。つまらない。


「…みーきー」
「名前、暇なら勉強したらどうだ」
「……三木ヱ門は鬼だ」
「………名前」
「んー」
「仕方ないから僕が勉強教えてやろう」


 突然の言葉に、私はぽかんと三木を見つめるしかなかった。じわじわと赤く染まっていく三木ヱ門の頬に、にやにやと顔が緩む。その顔を見て、三木ヱ門が苦々しげに眉間にしわを寄せる。そんな顔をしたって、頬は赤いままだ。がばりと身体を起こして、私は身体を三木ヱ門に寄せて座り直す。ほとんど開いたことのない忍たまの友を三木ヱ門の方に寄せると、三木ヱ門がそれをぱらぱらとめくっていく。


「三木ヱ門は教え方うまいから、とても助かるよ」
「あ、ああ、いや、それより、この忍たまの友、ずいぶん綺麗じゃないか」
「えー、そうかなぁ」
「はぁ、少しは真面目に授業を受けろ」
「うん、気を付ける」


 にこにこと笑う私に三木ヱ門も笑ってくれた。さっきまで三木ヱ門が読んでいた本は閉じられ、2人で私の忍たまの友をのぞき込む。正直に言えば、やっぱり勉強に興味は沸かず、すでに飽きているのだけど、それを言ったら三木ヱ門に怒られそうだから、真面目に聞いているふりをする。三木ヱ門がふと私の方を見て、また顔をしかめた。私は意味がわからず首を傾げる


「名前、僕の説明聞いてたか?」


 おや、ばれた。





120214

田村の口調がよくわかりません。一人称って僕であってますか。
田村と主人公は1番友達らしい友達。このくらいが普通の友達の距離感だと思います。主人公が何かあったときに1番最初に気付くのはたぶん田村。