「名前!食べてすぐ寝るなと何度言ったら…!」
「んー、滝も一緒に寝よう」
「こら!名前!腕を引くな!」


 縁側で昼寝をしようと自室から枕を持ってきて、横になった次の瞬間、滝夜叉丸の声が降ってきた。恨めしい気分になりながら昼寝に誘っても、滝夜叉丸は首を縦に振ってはくれない。滝夜叉丸の装束を握っていた手もはたき落とされてしまった。うだうだと滝夜叉丸お得意の長い説教が始まっているが、そんなものもちろん聞いちゃいない。だってどうせこのまま放っておいたら、自分の自慢話になるのだ。さすがにそれには付き合いきれない。自分に酔っているのだろう滝夜叉丸の装束を再び引っ張り、こちらに視線が向いたのと同時に、私は滝夜叉丸の名を呼んでみる。話を邪魔されて少々不機嫌そうな滝夜叉丸が、「なんだ」と答えた。



「今日は天気が良い」
「…ああ、そうだな」
「こんな天気の良い日は、縁側で本を読むと気持ちが良いだろうね。私は昼寝のほうが好きだが」
「………」
「滝、昨日図書室で借りていた本を持っておいでよ。ここはあたたかいよ」


 呆れた顔をした滝夜叉丸がため息を吐いた。「私が戻ってくるまでは起きていろよ」そう呟いて自室に向かう滝夜叉丸がいとおしくて、私は笑みを浮かべた。そうだ、先日学園長先生にいただいた美味しい饅頭があったはず。さっきまでの気怠い眠気など嘘のように、私は立ち上がり、自室へ向かった。饅頭を箱ごと持って縁側に戻ってくると、不機嫌な顔をした滝夜叉丸が縁側に座って待っていた。


「饅頭、食べるか」
「…昼寝はどうした」
「食べたら寝る」


 お前って奴は、何故そうも自由なのだ。忍者としてその計画性のなさは致命的だぞ。計画が狂って失敗しました、なんてことになったら一大事だということは、私よりお前のほうがわかっているだろう。それに比べて私は計画性においても優秀でうだうだうだ…

 いつものように始まった長い自慢話を無視して、いそいそと滝夜叉丸の隣に座る。抱えてきた饅頭を一つ、滝夜叉丸に差し出せば、ぐっと黙って苦々しげに受け取ってくれた。自分の分をもくもくと口に入れると、じんわりと広がる甘さに思わず笑みを溢した。



「学園長先生のおすすめは、やっぱりはずれなしだ」
「うむ、確かにうまいな」
「…滝、」
「なんだ」
「ここは、居心地が良いね」



 私がそう言うと、滝夜叉丸は一瞬間を置いて、嬉しそうに顔を紅葉させ、「当たり前だ!なぜなら学園一優秀で美しいこの平滝夜叉丸のそばにいれるのだからな!」と、また長い話を始める。今から私の昼寝に付き合ってもらうのだから、少しくらい自慢話に付き合おうかな。二つ目の饅頭に手を伸ばしながら、私はひとつ小さな欠伸をこぼした。





120214

主人公は甘えるときだけ「滝」って呼ぶ。それはわかってるんだけどどうしても甘やかしてしまう滝夜叉丸。
あんまり自慢話書くと長くなるから、だいたい省略。