「本当にありがとうございました、名字先輩」
「こちらこそ、大変な思いをさせちゃってごめんね」


 名字先輩からいただいた大福をお茶うけにして、僕たちは学級委員長委員会会議を開いていた。机の上には大福が入った箱の他に、いくつかに分けられている紙の束が並んでいる。学級委員長委員会で設置した意見箱に入っていたものだ。内容はほとんど、委員会について。天女様がこの学園に来た日から、委員会に入っている上級生の先輩方が委員会の時間になっても姿を現さなくなった。活動ができない。人手が足りない。どうにかしてほしい。そういった内容が書かれた紙を彦四郎と二人で見て、学級委員長委員会の先輩たちもいないことに不安になったのはそう昔の話ではない。そしてすぐに上級生で唯一委員会に顔を出していた名字先輩に泣きついた僕たちに、名字先輩は二つ返事で頷いてくださった。
 ふわり、と微笑んだ名字先輩は、僕が淹れたお茶を口に運んだ。「うん、おいしい」と手放しで褒められて、僕も微笑んでお礼を言う。


「それで、名字先輩、他の委員会の様子はどうでしたか」
「おお、そうだったね。今福、黒木、先生方に渡すために報告書を作るから、今から言うことを書き留めてくれると助かるよ」
「はい、わかりました」
「よろしくね。じゃあ、図書委員会からいこうか」


 名字先輩が急に真剣な顔になる。部屋の空気が変わる。僕は筆を持つ手に思わず力が入る。それは彦四郎も同じだったようで、部屋の中に緊張が走った。だけど、名字先輩があ、と声を上げ、へにゃりと笑って、その緊張は一瞬で崩れていった。


「黒木、もう一杯もらってもいい?それに、二人も大福をお食べよ。町でおいしいと噂の店で買って来たんだ」
「…名字せんぱあい」
「緊張感って言葉知ってますかあ」
「だって、そんな真面目に話すほどでもないんだもの。今日は茶会だと思ってくれていいよ」
「ええー!」
「この私が真面目にできるわけがないじゃない」


 優しく笑う名字先輩に思わず笑みをこぼす。僕が淹れたお茶を飲み、僕たちに大福を勧める。いつもの様子を崩さない名字先輩に救われた人はたくさんいる。意見箱にはお礼の言葉が溢れたし、各委員会は今のところ順調に活動できている。全て名字先輩のおかげ。先頭を切って歩くタイプの人ではないのに、誰もが慕っている。僕たちに絶対に無理をさせないし、自分も無理をしない。だから僕たちが罪悪感に苛まれることもない。名字先輩の存在は、僕たちの拠り所だった。


「さて、報告に戻るけど、図書委員会は少し活動の内容を変えて、さらに私の友人が手伝ってくれることになった。もちろん松千代先生には許可をもらっているよ。各学年の長屋に返却箱を置いているから、回収は組ごとに担当をつけてくれると助かるかもしれない」
「わかりました、各組に伝えておきます」
「ありがとう。次に体育委員会と生物委員会だけど、あそこは合同で活動してもらおうと思う。体育委員会で外回りをするときには私がついていって、ついでに狼たちの散歩をすれば、生物委員会の負担が減る。生物小屋がぼろぼろだったから、少し浮いた予算で補強しておいた」
「名字先輩、どうして予算が浮いたんですか」
「火薬委員会と用具委員会の活動が減ったからね。最近は無駄な破壊行動もほとんどなくなったおかげで、特に用具委員会の活動が減ってしまったから、あそこには山村もいるし、生物委員会の手伝いをしてもらってもいいね」
「火薬委員会はどうしますか」
「うーん、あそこも二人だけだからねえ。とりあえずは火薬委員会の仕事をしてもらおうと思う。作法委員会には学級委員長委員会の手伝いをしてもらおうかな」
「でも、僕たちも特にやることがありません」
「学級委員会には各委員会で何かあった時の対応をしてもらいたいんだ。急を要したり、君たちで解決できない問題が生まれたら必ず私を頼っておくれ。絶対に無理はしてはいけないよ。藤内の指示を仰ぐようにね。保健委員会は私が見るから、心配はいらないよ」
「問題は、会計委員会ですか…」
「予算会議も近いですし、どうしましょう」
「ふふ、会計委員会も心配ないよ」


 急に楽しそうに笑った名字先輩に、彦四郎と二人で首を傾げる。途端に悪そうな顔になった名字先輩が、悪戯を思いついた時の鉢屋先輩のそれに似ていて、思わずひくりと頬がひきつったのは、仕方ないことだと思う。


「今ならどんな予算でも通るだろうし、各委員会に好きに作ってもらおうか。どんな予算だったとしても、責められるのは私たちじゃないし、ねえ」


 名前先輩がどんな人にでも優しいなんて、誰が言ったの。





120514

委員会全制覇!