「前に手伝いに来たときはあまりにも役に立たなかったので、私の代わりに友人を貸し出します」
「おい、俺に拒否権はないのか、名字」
「あはは、ないよ」


 名前先輩が衿を掴み上げられながら笑っている。名前先輩の友人さんは、諦めたようにため息を吐いて名前先輩から手を離した。「よろしく」とぶっきらぼうに挨拶したその先輩の隣で、名前先輩が「彼、愛想は悪いけど捕って食ったりはしないから安心してね、二ノ坪」と怪士丸に笑いかけた。俺の後ろに隠れている怪士丸は、びくびくしながらも小さく頷く。よしよしと頭を撫で、能勢先輩に指示を仰ぐ名前先輩は今日もかっこいい。憧れる。確かに前に来たときは虫食い文書の作業の進まなさに呆れたりもしたけど、やっぱりかっこいい。名前先輩が連れてきた先輩は何度か本を借りに来ているのを見たことあるし、今日はさくさくと進みそうだ。


「名字先輩はきり丸と本の整理をお願いします。きり丸、頼んだぞ」
「はーい。名前先輩、一回も図書室来たことないっすもんね」
「図書室は静かだから眠くなるんだよ」


 眉を下げて笑う名前先輩の手を握ると緩く握り返される。それに満足して、名前先輩と一番奥の本棚に向かう。最近なかなか委員会活動ができていなかったせいでぐちゃぐちゃになっている本棚を見るとげんなりするけど、初めてこれを見る名前先輩は感心したように本棚を見上げていた。「たくさんあるんだねえ」じゃないぜ、まったく。たくさんの本を抱えている名前先輩に、それはあっち、これはそっちと指示しながら本を並べ替えていく。いつもならしんと静まり返っている図書室も、「図書室では静かに」と注意する中在家先輩がいないせいで、少し騒がしい。能勢先輩たちも何やら盛り上がっているようで、ひそひそとした話し声は絶えない。こちらもこちらで名前先輩がなかなか本の位置を覚えられなくて、いちいち申し訳なさそうに聞いてくるから、静かにしろと言うほうが無理な話だった。それに、最近やたら忙しそうな名前先輩と一緒にいれるだけで俺は嬉しくて、自然と言葉も多くなってしまう。顔がにやけているのは自覚している。だけど、抑えられる気もしなかった。


「きり、こっち終わったよ」
「じゃあこの棚で最後っすね」
「ええ、まだあったの…」


 しゃがんだままの体勢で苦笑した名前先輩は、少し休憩、と言って俺の身体を抱き寄せた。乱太郎と同じ薬の匂いがして、少し寂しくなった。休憩するほどのことじゃありません、とか、まだ他にも仕事はたくさんあります、とか言いたいことはたくさんあったけど、全部全部押しこんで俺も名前先輩に抱きついた。慰めるように背中を撫でる手がやけに優しくて、少しだけ泣きそうになった。
 図書委員会は今、二年生の能勢久作先輩が最上級生という状態で活動している。伊勢先輩があまりに大変そうだったから俺と怪士丸が名前先輩に助けを求め、三人でも活動できる方法を一緒に考えてくれた。上級生の利用が減ったから、その分貸出日を制限したり、返却箱を各長屋に置いて回収するようにしたりと、図書室の管理についてはすごく楽になった。空いた時間は本の修理に割いたけど人手は足りず、一年と二年じゃわからないところも多くて、修理しなければならない本は溜まっていくばかり。三人で頭を抱えていたところにやって来たのは、やっぱり名前先輩だった。いつもそうだ。俺にとって名前先輩はヒーローだ。かっこよくて、優しくて、困った時は必ずそばにいてくれる。
 ぎゅーっと抱きついていると、とたとたと歩いてくる音がして、本を修理していた三人が顔をのぞかせた。先輩が冷たい目をして名前先輩を見ている。


「名字、さぼってんじゃねえよ」
「おや、見つかってしまった」
「きり丸、ずるいよぉ…」
「こっちはまだ全然手が足りてないんですけど」
「おお、いいぞ、もっと言ってやれ」
「休憩だって必要だよ。二ノ坪も能勢もおいで。残りはそのお兄さんに任せるといいよ」
「おい」


 名前先輩の声に引かれて怪士丸が俺の隣にやってくる。二人まとめて抱きしめてくれて、俺も怪士丸も嬉しくなって笑った。さらに、先輩に背中を押されて歩いてきた能勢先輩がまざる。能勢先輩、赤くなってやんの。先輩は呆れつつも、薄く微笑んで俺たちとみていた。
 なんか、中在家先輩と不破先輩が帰ってきてくれたみたいだった。






120506

オチってどこに落ちていますか…。

主人公が連れてきたのは、い組の彼です。どう頑張っても、主人公が図書委員会とか無理そうだったので、はい。
彼の名前は一応考えてあるんですが、オリキャラって好き嫌いあるので、うーん。どうしようかな。いつだかに出てきたろ組の子にも一応名前はあるんだけど、出すかどうか悩み中です。