私は学園からくだされる任務だけではなく、学園の外部から依頼される任務に就くことがある。偵察、要人の護衛、密書の配達、暗殺などそれは多種に渡り、私はそれらで報酬を得ることで学園での生活を成り立たせている。先生方が私の任務先と先輩方の実習先が重ならないように配慮してくださっているが、私の任務は不定期で、任務によっては行動が予測できないことも少なくはない。いつか任務中の私が学園の生徒に遭遇するかもしれないのだ。まさかその いつか が、こんなにも早く訪れることになろうとは思わなかったが。


「さて、今回の任務の報告を聞かせてくれぬかの」
「はい」


 場所は学園長先生の庵。私は姿勢を正し、学園長先生に真っ直ぐ向き合った。片眉を上げてこちらを見る学園長先生はどことなく楽しそうだ。具合を図ったかのように、頭上でことり、と何かが動いた。


「今回の任務で私に与えられたのは、密書を運ぶ交渉人の護衛でした。しかし穏便に結ばれるはずだった今回の同盟、先方は始めから結ぶつもりがなかったのです」
「なんと…それは確かか」
「はい。密書は白紙、交渉人も忍者です。先方は私にこの情報を明かし、相手方を暗殺するよう命じてきました。その命令通りに動いていたら、状況は確実に悪化していたでしょう。あの合戦場に先輩方がいることに気付いた時点で、私は先輩方を逃がすことが先決であると判断し、忍者から奪った密書を一番近くにいた善法寺先輩と食満先輩に渡しました。結果として、密書を運ぶはずだった者が姿を消したということで、真実は曖昧なまま、戦は休戦という形に落ち着いております。報告は以上です」


 私が報告し終えると、学園長先生は「うむ、ご苦労じゃった」と膝を叩いた。そして、真面目な顔をして思い悩むような素振りをする学園長先生を余所に、私はヘムヘムが煎れてくれた茶をいただく。少し冷たくなっているが、うん、相変わらずおいしい。しばらく庵に沈黙が流れると、学園長先生が静かに口を開く。


「その姿を見られたのは伊作と留三郎だけかのぅ」
「はい」
「その二人なら、狐の面を被った忍者が名前だと気付いたとしても、下手に言い触らすようなことはしないじゃろう」
「私もそう信じています」
「今回のことは学園側に否がある。お主の退学は見逃そう」
「ありがとうございます」


 私は両手を膝の前につき、深々と頭を下げる。学園長先生の笑い声に隠れるように、頭上で再び何かが動く音がした。私はかすかに笑みを浮かべ、頭を上げると、学園長先生も意地の悪そうな笑みを浮かべ、天井を見上げる。さすがは学園長先生。気付いていての発言か。


「これで口止め完了じゃの」
「ふふ、そうですね」


 さて、退学も免れたことだし、おばちゃんのおいしいご飯が食べたいなぁ。







120309

前話はもともと書きたい話だったのですが、繋がりとか考えてなかったせいで、今回いつも以上にまとまりのない文章になってしまいました。すみません。