死 。生き物にとってそれは生の最終地点であり、最も忌むべきものである。古来より人は 死 を嫌い、妬み、憂い、恐れ、哀しみ、そして崇めてきた。だから生き仏なんて惨いことができるのかもしれない。命は尊いものだと、どんな生き物であってもむやみに命を奪ってはいけないと。そう人は教え教えられて生きていく。でも僕は、そんなものは綺麗事なのだと思い知ることになる。この世に殺人がない場所などない。生きるために人を殺す人間だっている。金のために人を殺す人間だっている。この世に生きている限り、死 から逃れることはできないのだ。


「ねぇ、留三郎」
「…どうした、伊作」
「どうして、人は人を殺すんだろう」


 僕が吐き出した言葉に、留三郎は何も答えなかった。答えられなかった、の方が正しいだろうか。こんな問い、考えたところで答えが出るものではない。僕は眼下に広がる惨劇に目を耳を塞ぎたくなった。

 今回の実習は六年生全員に課せられている。合戦場にて、密書を奪え。これが今回の課題だ。先生たちからの情報によると、今ここで戦をしている二つの城は裏で手を組んでいて、この戦は同盟を結ぶための建前としてのものだという。そしてこの合戦の最中に密書が渡される手筈になっているらしい。密書が渡され、相手方がそれに承諾すれば、この戦は終わりを迎える。戦場で刀を交わらせている侍たちはこれを知らず、己が仕えるお城のために命の奪い合いをしているというのに。

 僕たちが身を潜めている草むらの後方で枝が揺れる音がして、苦無を構え、音のした方に視線を移す。姿は見えないが、金属がぶつかり合う音が立て続けに聞こえ、それが止んだかと思えば地面を駆ける足音がこちらに向かってきた。冷や汗がじわりと浮かぶ。暗闇から現れたのは、紺色の忍装束を身に纏い、狐の面を付けた忍者。よく見れば僕たちよりも幼い身体つきをしている。その忍者は僕たちを気に留める素振りもなく走り去り、戦場に消えていった。


「…っはぁ、びっくりしたぁ」
「何だったんだろうな、あれ」
「僕たちより年下っぽかったけど、プロの忍者なのかな」
「いや、まさか、」


 緊張が切れ、草むらで気を緩めている僕たちの前に、突然人影が降りてきた。さっきの忍者だ。僕たちは素早く距離を取り、身構えるけど、彼はじっとその場にたたずんでいるだけで、動こうとしない。冷たくて切るような殺気が突き刺さり、冷や汗が背中を伝う。ぴり、と緊張が走るが、彼は突然両手にはめていた手甲鉤の片方をはずし始めた。素手になった彼が懐に手を入れたことに警戒し、苦無を構え直す。しかし彼が取り出したのは小さな巻物だった。それをこちらに差し出す彼に僕は思わずたじろぐ。


「貴方たちが探している密書です。これを持って早く撤退してください」


 投げ捨てられた巻物が留三郎の足下に転がる。それは確かに僕たちが探していた密書だった。しかし、何故?彼はそれだけ言うとまた戦場に消えていった。彼がいた場所は手甲鉤から滴り落ちた血が地面に染みて、赤黒く変色してる。留三郎は密書を拾い上げ、じっと見つめて動かない。僕はぼんやりとさっきの忍者が消えていった戦場を見つめた。


「…なぁ、伊作」
「うん」
「今の声に聞き覚えないか」
「…うん」


 留三郎ったら、僕が何年あの子の先輩やっていると思っているの。







120307

時代背景とかはあんまり詳しくないので、御都合主義でお願いします。えへ