いつも昼寝をする木の上で、赤い蛇を見つけた。見覚えのあるその美しい蛇に「こんにちは、ジュンコ」と声をかけたら、機嫌良さげにするすると近付いてきて、私の腕を伝い、首に一巻きして落ち着いた。「伊賀崎と喧嘩でもしたのかい」と問いかけるも、ジュンコは微かに尾を揺らしただけだった。女の気分は変わりやすいというが、それはどうやら蛇にも当てはまるようだ。ジュンコだから、かもしれないが。
 ジュンコと共にのんびりとした時間を過ごしていると、遠くでジュンコを呼ぶ伊賀崎の声がした。他の三年生も一緒に探しているようで、怒鳴り声や叫び声も聞こえる。数馬、また落ちたんだろうな。藤内が巻き込まれていないといいけど。私は木の上から降り、伊賀崎たちの声がする方へ歩き出した。


「あ、名前先輩!ジュンコ!」
「木の上にいたよ。ほら、泣かないの」
「名前先輩ありがとうございます!」
「どういたしまして」


 ジュンコとの再会に泣きそうになっている伊賀崎の頭を撫でると、照れくさそうに微笑んだ伊賀崎が私の隣にぴったりとくっついた。
 毒虫野郎、なんて呼ばれている伊賀崎は、一度懐に入れた人間に対しては優しいし、ぺたぺたとくっついてくる甘えただ。私からすれば可愛い後輩の1人で、正直竹谷先輩が羨ましい。いや、別に、数馬が可愛くないわけじゃない。後輩は平等にみんな可愛い。
 あ、そういえば、


「伊賀崎、他のみんなはどこいったの」
「数馬と藤内は綾部先輩の蛸壺に落ちてて、作兵衛たちはたぶん、」

「おいお前ら!俺がいいって言うまで動くんじゃねぇ!」
「なぜ縄で繋がれなくちゃいけないのだ!」
「俺たち、別に方向音痴じゃねぇのに。なー」
「なー」
「少し黙れ…!」

「…いたね」
「…ですね」


 迷子2人を縄で繋いでいる富松が怒りで震えている姿を発見し、私は苦笑を浮かべた。富松はいつも大変そうだ。三人のことは伊賀崎に任せ、私は数馬と藤内が落ちているという蛸壺をのぞきに行く。狭い蛸壺の中で折り重なるように収まっている二人は、「名前先輩…」と声を揃えてうなだれた。いつも落ちた二人を発見するのが私だから、申し訳ないとか思っているんだろうなぁ。別に気にしないのに。


「二人とも大丈夫?」
「俺は大丈夫です。でも数馬が足挫いちゃって…」
「すいません…」
「我らが保健委員の運命だから仕方ないよ。ほら、藤内。先に引っ張り上げるから、手を貸して」
「あ、はい!」


 藤内を引き上げた後、蛸壺に降りて数馬の背中と膝の下に腕を滑らせて横抱きすると、数馬が真っ赤な顔をして「ひゃあ!」と何とも可愛らしい声を挙げた。にやにやしている私の視線から逃げるように、数馬が私の胸元に顔を埋めた。なにこれ可愛過ぎる。でれでれしていると手元に影が落ちてきて、上を見上げたら、みんながこちらをのぞき込んでいた。


「名前先輩、早く上がってきてください」
「おや、伊賀崎。そう睨まないでくれよ」
「名前先輩、七松先輩が探してましたよー。ちなみに今日は塹壕掘りっす」
「うーん、見つからないように頑張るよ」
「あ、名前先輩、潮江先輩から聞いたんですけどー、」
「神崎、言うな。言うなよ」
「それ、立花先輩も、」
「ちょ、藤内やめて。立花先輩怖いからやめて」
「………」
「富松も食満先輩から聞いたんだな、うん。知らないふりしてくれるのは嬉しいけど、顔に出てる」

「名前先輩恥ずかしいから早く上がって早く下ろしてくださいいいぃ!」


 あ、すっかり忘れてた。






120224

マジデレ孫兵は天使。数馬も天使。だからどうしても贔屓しちゃいます、えへ。
四年と三年は仲が良くないといいますが、主人公は無害だから三年生も懐いてます。孫兵は綾部二号。
あ、藤内のことを名前呼びなのは、数馬関連でよく助けるから。