※大学生パロ
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 桜の花びらが地面に落ちる前につかむと願い事が叶う。


 よく耳にする春の迷信をわたしは毎年実践している。わたしの友人たちは「そんなことで願い事が叶うわけないじゃん」って言うけど、別にわたしだって願い事が叶うって信じているわけじゃない。さっきわたしの横を通り過ぎていったサークルの先輩には「大学生にもなって何やってんの」って馬鹿にされたけど、別にいいの。誰も一緒にやってくれなくたっていいの。わたしが楽しいからやってるだけだし。
 風に吹かれてふわふわと浮かぶ花びらを追い掛けて、ふらふらと歩き回る。授業中だから周りに人はあまりいない。思う存分花びらを追い掛けることに夢中になっていると、突然背中に何かが当たった。慌てて振り向くと、笑顔の勘ちゃんが立っていた。


「あ、勘ちゃん」
「よっ!さっきから頑張ってるけど、収穫あった?」
「んー、今年は手強いねー」
「それ去年も言ってたじゃん」


 勘ちゃんがけらけらと笑う。わたしもつられるように、気付いたら笑っていた。
 去年も必死に花びらを追い掛けていたわたしに声をかけてきたのが勘ちゃんで、それから何かと仲良くやっている。勘ちゃんとは学科もサークルも違うから学校ではほとんど会わないのに、勘ちゃんはよく飲みや遊びに誘ってくれる。勘ちゃんはイケメンだし、すごく優しいし、一緒にいるとすごく楽しい。わたしが花びら追い掛けてても笑わないし。とにかくいい人だ。


「あ、」


 勘ちゃんが突然腕を持ち上げて、わたしの前に手を差し出す。わたしが首を傾げると、勘ちゃんは嬉しそうに手を開いた。そこには小さな花びらが1枚。


「えー!なんでー!勘ちゃんすごーい!」
「おれ、今年の願い事はガチだからね」
「え、なになに?あ、でも願い事って人に言っちゃうと叶わないっていうから、言っちゃ駄目だよ」
「でも、おれの願い事はお前に聞いてもらわないと意味ないからさ」
「おお?」


 勘ちゃんはそう言うと、にっこりと笑って、わたしの髪を撫でた。勘ちゃんの手のひらにはまた1枚、花びらが。


「去年の願い事は、必死に花びら追い掛けてるこの子と仲良くなれますように。今年の願い事は、その子と付き合えますように」
「えっ、」
「好きです。おれと付き合ってくれませんか」


 笑顔の勘ちゃんにわたしの視線は奪われた。そうして、わたしはゆっくりと頷く。ああ、もう、どうしよう。泣きそうだ。

 どうやら、春の迷信は嘘じゃなかったみたい。




120329〜120505 拍手ログ



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