※どっちも大学生。


「何読んでるのー?」


 のし、と後ろから覆いかぶさってきたタカ丸から、ふわりと石鹸の匂いがする。わたしの顔の左側にぴったりと顔をくっつけてくる。わたしはソファーの背もたれに体の右側を預けた体勢のまま、手元の本の表紙をタカ丸に見せて「今話題の青春小説」と答えた。タカ丸がわたしの背中にくっついて、肩に顔を置く。せまい。


「せまいからこっち座りなさい」
「やだ。名前ちゃんを堪能したいの」
「こっちでもいいでしょ」
「やだ」
「はいはい、ご自由にどうぞ」


 お互いの距離が近すぎるせいで、タカ丸がしゃべるたびに耳がくすぐったい。開けっぱなしの窓から、ぎゃははは、という頭の悪そうな笑い声が入ってくる。一度中断した読書を再開し、青い春を綴る文字を追う。ページをめくろうとすると、今の今まで大人しくしていたタカ丸が「あっ、待って、おれまだ読んでない」と声を上げて、後ろから腕を伸ばしてきた。タカ丸の指が、わたしがめくったページをひとつ戻した。タカ丸の腕はそのままわたしを抱きしめてきたから、わたしはタカ丸に体重を預けるように体勢を変える。


「タカ丸どこ読んでるの」
「んー、ここらへん」
「てか途中から読んでもおもしろくないでしょうが」
「でも全部読むと途中で飽きちゃうから」
「本を愛する人を敵に回すような発言はやめなさい。これ、映画にもなってるから、今度借りてこようか」
「じゃあ名前ちゃん、今から借りにいこうよ」
「え、お風呂あがりじゃん」
「お風呂あがりに食べるアイスって最高じゃない?」
「まだ寒いよ」
「じゃあ肉まん!」
「ううう、こうやって豚になっていくんだわ…」
「名前ちゃんはもう少し太ってもいいと思うよー。おなかぺったんこ」
「お前自分がイケメンだからって許されることと許されないことが、やめておなか触らないで」


 おなかの無駄な肉を摘まもうとするタカ丸の手を阻止して、代わりにタカ丸のほっぺを引っ張る。「いたーい」と言いながらも、わたしの手から本を奪い、栞を挟んでテーブルの上に置く。体を起して、床に置きっぱなしにしていた鞄から財布だけを取り出すわたしの肩に、タカ丸が上着をかけてくれる。よくできた彼氏だ。わたしの手から財布を奪って、ぽい、と鞄の上に投げてしまったタカ丸に視線を投げれば、「ぼくが持ってく」と言って、財布の代わりにわたしの手にタカ丸の手を重ねた。スリッパからスニーカーに履き替えて出た外は、春とはいえまだ肌寒かった。体を寄せ合って、「さむーい」と言いながら、車通りも少ない道路の端っこを歩く。


「肉まんあるかなー」
「先にDVD借りにいこうよ」
「どうせならいっぱい借りてこよ!DVD観賞しよ!」
「明日も学校だよ」
「でも午後からでしょ?」
「タカ丸も午後からだっけ?」
「んー、ぼくは1限あるけどー」
「また今度ね」


 えー、とサボる気満々だったタカ丸が隣で唇を突き出した。てい、とタカ丸のおなかにパンチを入れれば、タカ丸はきゃーと言いながらくっついてくる。わたしたちの笑い声も、きっとどこかの部屋に届いている。






20140330

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