※現パロ



「立花先生どこにいるか知りませんかー」


 職員室の入り口から聞こえた声に、咄嗟に身を屈める。コピー機の影から入り口の方を盗み見れば、文次郎と向かい合っている女子生徒がひとり。コピー機ががしょんがしょんと動く音のせいで、あいつの声は聞こえなくなったが、2人してきょろきょろしているところを見ると、どうやら私を探しているようだ。困った。さっさと帰ってくれないだろうか。その場にしゃがみ込みながら、コピーの終わったプリントを整えていると、「何やってんだ、仙蔵」と声をかけられ、プリントが手を滑り落ちた。別に驚いたとか動揺したとかではない。違うからな。たまたま手が滑っただけだ。


「留三郎、私に構わず仕事しろ」
「コピー機使いてーんだよ。で、お前は?」
「お前に関係ないだろう」
「…あー、あの子が探してんのか」


 職員室の入り口で今度は担任の長次と話しているあいつを見て、留三郎は呆れたような声を出した。「健気で可愛いじゃねーの」貴様が言うと犯罪臭がするからやめろ。もう一台の方のコピー機を使い始めた留三郎を横目に、あいつの様子を盗み見していれば、へらへらと笑い、長次にお辞儀をして、職員室から出て行った。どっ、と肩の力が抜ける。膝の上でまとめていた山のようなプリントをコピー機の上で綺麗に整える。隣のコピー機が忙しなくプリントを吐きだしている。


「ちゃんと断ってやらないと、あの子も可哀想だろ」
「告白されてもいないのに断るのもおかしいだろ」
「確かに。いやあ、厄介だな、あの子」


 にやにやと私を見てくる留三郎を無視して、大量のプリントを抱えて自分の机に戻る。どん、とプリントの山を腕から下ろして、思わずため息が出た。





 下校時刻も間近に迫った頃、外はすでに暗くなり始めていた。教室に残っている生徒に声をかけ、さっさと帰るよう促していく。あと、ひとつ。と思って覗き込んだ教室にいたのは、あいつだった。教室に入る音でこちらに気付いたあいつが「あ、立花先生」とへら、と笑った。これだ。これが困るんだ。手元には数学の教科書と明日提出の課題。ああ、そういえばこいつ数学苦手だったな、と思いながら、「下校時刻だぞ」と声をかければ、「えっ、もう?」と目を見開いた。


「全然終わらなかった…」
「家に帰って頑張るんだな」
「先生、このプリント難しすぎですよー」
「この前やったところだろ。わかんなかったら聞きに来い」
「先生いっつもいないじゃないですか」
「タイミングが合わないだけだ」
「うっそー、先生がわたしのこと避けてるんでしょー」
「、そんなわけあるか、あほ」


 えー、とへらへら笑いながらプリントやペンケースを丁寧に鞄にしまう姿から視線をはずす。思わず動揺してしまった。確かに避けてはいたが、まさか気付かれていたとは。鞄に物を詰め終わったあいつが立ち上がるのに合わせて、私も教室を出る。あいつが後ろから追い付いてきて隣に並んで、「先生って、わたしのこと避けてるでしょ」と笑った。


「だから、そんなわけ、」
「今日も職員室に先生探しに行ったら、潮江先生がさっきまでいたって言ってたのにいないし、でも先生の机にはまだ画面のついたままのパソコン置いてあるし、食満先生がやたらとこっち見てくるし、どうせ立花先生どこかに隠れてるんだろうなって、わたしの推理あたってます?」
「あほな推理してる暇があったら、数学の課題頑張れ」
「はーい。でもわたし、諦めませんよ」
「…なにを」
「立花先生のこと」


 足を止めた私に彼女は向かい合って、いつものようにへらりと笑った。


「生徒と先生であるうちは告白なんてしません。断られるに決まってますから。生徒と先生じゃなくなっても、先生がわたしの想いを断る理由が見つけられなかったら、そのときは先生の、じゃなくて、立花仙蔵さんの彼女にしてくださいね」


 じゃあ、また明日。と手を振って去っていく彼女の後ろ姿を見て、乾いた笑いが零れる。仕方ない、待ってやろうじゃないか。条件はあちらも同じだ。





130508~131026
随分長い間放置してた拍手ログ

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