君は特別だから飴をあげるの設定
 高校生



「花火大会?」
「うん。小学生の頃に初めて2人で行ったの、覚えてる?」


 雷蔵の家にお邪魔して、いつものようにだらだらと漫画読んだりゲームしたり雷蔵のお母さんが茹でてくれたそうめん食べたりして、また雷蔵の部屋でだらだらとしているときに、ふとカレンダーに目を移した雷蔵が「あ、」と口を開いた。花火大会。もうそんな時期かあ、とおれもカレンダーに目を向ける。夏休みに入ってから、おれも雷蔵も部活に明け暮れて、たまに休みが合えばどっちかの家でだらだらして過ごしている。この暑い中、出掛けようという気にならない。雷蔵はたまにはどこかに出掛けようよ、と恨めしそうな目を向けてくるけど、暑さには勝てない。溶ける。夕方でも暑いんだぞ。そりゃあ子どもの頃は夏だろうと冬だろうと関係なく、外で元気いっぱい遊んでたけどさ、たぶん。
 カレンダーに印刷された花火の絵を見れば、なんとなくその時のことを思い出した、ような、気がしなくもない。正直、あんまり覚えていない。あー、と言いながら雷蔵を見れば、どうせ覚えてないんだろ、と言いたげな顔をされた。おい。


「雷蔵がおれとはぐれてわんわん泣いて、何故かおれだけ母さんに怒られたことは覚えてる」
「余計なことしか覚えてないよね、名前って」
「失礼な奴だなー」
「あれは名前がぼくをおいて屋台に突撃していくから」
「え、おれ、そんなに落ちつきのない子どもだっけ?それ雷蔵じゃないの?」
「違います。ぼくちゃんと覚えてるもん」


 えー、そうだっけ、と記憶を遡ってみても、いまいち何も出てこない。雷蔵とはぐれないようにって母さんに念を押されたこととか、大人たちに囲まれてしまってあんまり花火が見れなかったこととかは覚えてるんだけど。


「なつかしいなー。あれ以来おれ行ってないんだよね、花火大会」
「ぼくも。それでね、名前、あの、今年は花火大会に、行こうと思うんだけど…」
「お土産は焼きそばとイカ焼きでお願いします」
「…名前」
「………わかった。おれも行くよ」


 雷蔵の恨めしそうな目に負けて、おれはやれやれと首を振る。夕方なら少しは涼しくなっているだろうし、夏休みになってから部活以外でまともに出掛けてないし、たまにはね、うん。一応、恋人同士なわけなんだし。一応とか言うと雷蔵に怒られるから言わないけど。うつ伏せになっていた体を起こし、ベッドに上に胡坐をかく。雷蔵はさっきまで読んでいた本を閉じて、わくわくとした表情でこっちを見上げてくる。ほんと、かわいいなあ。


「ねえ名前、浴衣持ってないの?」
「持ってないなー。雷蔵は持ってるの?」
「うん」
「え、まじ?着てきてよー見たーい」
「たいして思ってないでしょ」
「男の浴衣姿見たってねえ」
「………」
「ごめんごめん、うそです、うそ。睨むなって。でもお前、下駄?だっけ、ああいうの苦手じゃん。すぐ足痛くなってぐずってたじゃん」
「もう子どもじゃないんだからぐずらないよ」
「ほんとー?浴衣着てくるなら下駄もちゃんと慣らしとけよー」


 うんっ!と嬉しそうに頷く雷蔵の頭に手を伸ばして、ぐしゃぐしゃと髪を乱す。やめてよ、と言いながらもにこにこ笑っている雷蔵が可愛くて可愛くて、そのまま手を頬に滑らせて、引き寄せて、唇を重ねた。初めてなわけでもないのに、雷蔵は湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして「す、するなら、先に言ってよ…」ともごもごと口ごもる。ぐしゃぐしゃにした髪を撫でて戻してやっている間も「名前はいっつも急だから心臓に悪い…もう、もうほんと、恥ずかしい…」と呟きながら俯いている。


「先に言っても雷蔵は駄目じゃん」
「でも、心の準備ってものがっ、」
「慣れるまで何年かけるつもりだよー。女の子と付き合ってたときはどうしてたの」
「な、なにも…」
「え、何もしなかったの?ちゅーも?じゃあ、雷蔵の初めてって全部おれってことになるわけだ」
「う、うん…」
「ほほーう、なるほどねー」


 それは、いいかも。男は恋人の最初の男になりたがるっていうけど、それは案外本当かもしれない。真っ赤な顔をしている雷蔵がちらちらとおれを見てくる最初は雷蔵とぎくしゃくするのが嫌だから、なんて最低な理由で付き合い始めたけど、今思えば、あの頃からおれはちゃんと雷蔵のことすきだったんじゃないかな、とか、都合いい話だけど。
 雷蔵の頭をぽんぽんと撫でて、こちらを見上げた雷蔵ににっこりと笑いかける。


「雷蔵、もう一回ちゅーしていい?」
「えっ、う、」
「する前に言ってほしいんだろ」
「そ、そうだけど」
「ほら、返事は?」


 耳まで真っ赤になって、ついには目に涙を溜め始めた雷蔵が、ようやく小さく頷いたのを見て、おれはかわいいな、いとおしいなって思うのだ。






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