※土井先生の教え子。6年生。



 任務の帰りに山賊に襲われた。女装していたせいで体を売れだのその前におれたちで楽しもうだのふざけたことを嬉々として言ってやがるから、今後男として生きられないようにしてやろうかと思って、奴らの根城までめそめそと泣く演技までしてついていったけど、汚い顔で蔑むように笑う男たちに覆い被さられた時、ひとりの大人の顔が浮かんだ。ぼくたちの担任の先生は、とても優しくて、とても強くて、みんなが大好きな、憧れの忍者だ。それに加え、先生はとてもお人よしだから、夕方には忍術学園に着くと連絡したのに、夜のなっても帰ってこないぼくを、胃を痛めながら待っていてくれているのだろう。そう思った瞬間、どうしようもなく会いたくなって、目の前の男の肩に隠し持っていた苦無を突き立て、油断しまくっている周りの男たちを蹴散らして、一目散に忍術学園に駆けた。


「名前…、名前っ!」


 それから忍術学園に着くまでに深夜になってしまい、仕方なく塀を飛び越えて忍術学園に入り込めば、ふと名前を呼ばれた。聞き慣れたその声の方に体を向ければ、心配と安心とがごちゃまぜになったような顔をした土井先生がいた。会いたい、と一心に思っていたその人が、目の前にいることにほっとして、ぼくの体から力が抜けていく。上がっていた息も、少しずつ治まっていく。少し汚れた手で土井先生の忍装束を握り締めて、頭を胸に押し付ければ、土井先生が戸惑ったようにぼくの肩に手を置いた。あたたかい。


「土井先生、こんな時間に何してるんですか」
「お前こそ、今日の夕方には帰ってくると連絡してきたのに、こんな時間まで何していたんだ」
「ちょっと、道草を」
「道草?まさか、山賊に襲われたんじゃ、!」
「大丈夫ですよ、返り討ちにしてやりました」
「馬鹿野郎。だからあれほど女装したまま帰ってくるのはよせと、私は何度も忠告しただろうが」
「はい、ごめんなさい」
「…名前がいつまでも帰ってこないから、私は胃が痛くてだな」
「ごめんなさい」
「だけど、無事で良かった」
「先生、待っててくださって、ありがとうございます」
「ああ、おかえり、名前」
「ただいま、土井先生」


 肩に置かれていた手が背中に回って、ぎゅ、と抱き寄せられる。だけどそれは一瞬で、ぼくがその背中に腕を伸ばす隙も与えないほど、あっさりと離れていった。先生の忍装束を握ったままのぼくの手に土井先生の手が重なる。これもあっさりと解かれてしまって、途端に何かもが冷たくなった。自分の手を引き寄せて握って、顔を上げる。会いたい、と思い浮かべたときと同じ優しい笑顔に、心臓をぎゅ、と締め付けられた。あーあ、この人は、本当にずるい大人だ。


「土井先生、会いたかったです」
「私もだよ、名前」


 容易く線を引くくせに、決して突き放してはくれないこの人のずるさに、ぼくはいつでも踊らされる。ぼくが先生に抱く気持ちにずっと前から気付いてくれているくせに。それでもぼくはもう少しだけ、この人のずるさに縋っていようと思うのです。この人に恋焦がれて6年目の初夏のこと。








130602


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -